第13章 破面編(前編)
「それをこの眼で確認したいのよ。聞いただけの事より自分の眼で見たものを信じたいじゃない。」
そう言うと彼は双眸を細める。
心だの絆だの、目に見えないモノを一番に信じているというのに今更何を。何よりも不確かなソレを有ると言うのなら、それ以外のものなどわざわざ見ずとも同じことだろう。
ウルキオラはそのまま1度瞼を降ろすと直ぐに立ち上がった。
「ウルキオラ?」
「行くぞ。」
「何処に?」
「虚夜宮の外だ。」
長い裾をひらりと翻し部屋の扉へ向かう彼に呆気に取られるとゆうりも慌ててその背中を追う。振り返る事は一切しない彼の隣に並び、向かう先へとついて行く。
「…このやり取りを経て貴方の中でどういう心境の変化が起きたのかしら。」
「見ればいい。そして知れば良い。俺たち虚の住処を。」
「…なるほどね。」
それからはお互い静かなものだった。相変わらず真っ白な廊下を歩き続けていると、軈て外に出る。そこは相変わらず真っ白で、上を見上げども華やかな色は無い。墨を流したような真っ黒な空に欠けた月だけがポツンと浮かんでいる。ただ黒と白の相反するたった2色だけがこの空間を造り上げていた。
「凄い…本当に砂漠みたいなのね。この砂は…ほんの微量だけれど霊力を含んでる。何で出来ているの…?」
「死んだ虚の肉体がこちらで朽ちると砂状に変わる。そうして出来たのがこの砂漠だ。」
「…それを聞くとなんだか少し歩き辛いわね。」
「同情か?」
「え?そうね…そうかも。せめて魂だけは私たち死神が救えてたら良いのだけれど。現世では切ったら消えるのに、こっちで死んだら残り続けてしまうなんて不思議ね。霊子濃度が濃いのが原因かしら……あ、あれが果物?」
外に来るなりまるで散歩に出掛けた子供のように好奇心を露に好き勝手歩き回る彼女をただ静かに眺める。
この女の一体どこが脅威なのだろうか。霊圧を抑えているとは聞いているが、到底藍染様に届くとは思えない。そしてこの警戒心の薄さだ。得体がしれない。
「これ、食べても良いかしら…でも1個しか無いし……私が食べたら困る虚もいるかもしれないし……悩ましいわね…味はするのかな…。」
「……此処に住まう虚は呼吸をするだけで必要な栄養は得られる。それでも足りん奴は共喰いをする。小さな果物1つでどうにかなる虚は少なからずいない。」
