第13章 破面編(前編)
市丸の部屋に着くとそこはゆうりの部屋と殆ど何も変わらない真っ白な空間だった。違う箇所といえば彼が藍染の側近の様な役割だからだろうか、ベッドやテーブル等少しばかり彼女よりも整っているくらいだ。それでも色が無く淋しい事に変わりは無い。
「…庭に柿植えて育てる、なんて言ってた割に随分と殺風景なのね。」
「ソレ瀞霊廷での話やろ。此処では花も木も果物もなぁんも出来ん。」
「果物は出来るんじゃなかった?」
「あんなスカスカなん、果実に失礼や。」
「食べた事有るのね。」
「興味湧くやろ。ゆうりも食べてみたらえぇよ。」
「わっ。」
ゆうりが室内に足を踏み込み話しながら辺りを見渡していると、少し強めに背中をトンと押され、その勢いに2歩、3歩と前進した所で目の前のベッドに片手を着き止まる。
無機質な見た目と正反対な柔らかさに気を取られた刹那、上からずっしり何かが伸し掛る。言わずもがな、市丸だった。彼の口もとが耳の真横まで迫っているのが分かる。胸板が、腹が、ましてや下腹部までもが覆い被さる様にして背後に密着し、直ぐに蛇の如くスルリと両腕が腹へと回された。薄い布越しに伝わる体温の熱と、静かに響く心音につられて自分の心臓までドキドキと大きく脈打っている様な感覚のもどかしさに彼女は唇を浅く開閉させる。
「…ギン、重いのだけれど。」
「愛が?」
「それもだけれど、物理的にも。」
「酷いなぁ、これでもボク細い方やと思うんやけど。」
「…もう、そうじゃない……んッ。」
生暖かい舌の感触が項を撫でる。薄い唇が肌を食み、強く吸い付いたかと思えば鋭い歯が食い込み痕を残す。甘やかな刺激と鋭い痛みが薄い皮膚を弄び、ゾクゾクとした痺れが全身に駆け巡り上擦った声が洩れる。
そんな彼女の素直な反応に市丸は自然と笑みが零れ、後ろから見ても分かるほど赤く色付く耳元に唇を寄せ、柔らかな耳殼を甘噛みながら、片側の手を服の裾から忍ばせる。指先が腹を伝い、徐々に上へと向えばゆうりは咄嗟に手首を掴む。
「だめだってば…!」
「何があかんの?誰も来おへんよ。」
「急に呼ばれたりするかもしれないじゃない…!」
「大丈夫やて、今日は何も起きんから。」
「でも…っ!」