第13章 破面編(前編)
「…ザエルアポロ?」
「覚えていてくれて嬉しいよ。こんな場所退屈だろう?少し僕に時間をもらえるかな。」
そう言った男は笑顔を浮かべ恭しく片手を差し出す。
この胡散臭さは何処か既視感があったな…そうだ、初めて藍染を見た時だ。警戒するに越したことはないだろう。
ゆうりは彼と同じように人当たりの良い笑みを浮かべればその手を取る。
「えぇ、構わないわ。私も貴方達と話したいと思っていたから。」
「それは光栄だね。」
連れて来られた先はザエルアポロの自宮だった。そこには破面とは到底見えない、人の姿から遠く離れた形状の従属官と思われる者達が沢山居る。中でも胴体は球体のように丸く、手足は枯れ木のように細い破面がぽよんぽよんと跳ねながら近付いてきた。
「ザエルアポロさまだー!」
「さまだー!」
「凄いわ、白玉みたい。」
「彼らはミローナとペローナ。僕の従属官は異色でね。改造した虚共を特別に藍染様に破面化して頂たいたものだ。さて、ここに座るといい。紅茶は飲めるかい?」
ゆうりは周囲を見渡しながら真っ白でやや大きい机と、背もたれが王座の間によく似て細長い椅子が置かれた場所まで歩を進め、引かれた椅子に腰を落とす。少し甘い香が焚かれている気がするが…小さく鼻を鳴らせば、その中に昔良く嗅いだような薬品の匂いが微かに鼻腔を抜ける。
「…貴方、科学者ね。破面にも居る事に驚いたわ。飲み物は大丈夫。このまま話しましょう。」
「……なるほど、馬鹿では無いらしい。わざわざ香まで焚いたというのに徒労だったな。」
拒まれる事自体は想定の内らしく、ザエルアポロは小さく肩を竦めて笑い反対側の椅子に腰を掛けた。机に両腕の肘を着き、スラリと長い指を絡めて彼女を見据える。
「単刀直入に言おう。君の卍解を見せてくれ。」
「…何故?」
「察した通り僕は科学者だ。卍解という存在は知れど見たことは無い。だから見てみたい、という至極単純な好奇心だよ。」
「あなた達も帰刃というものが有るのでしょう?同じじゃない。」
「僕らのソレは虚だった時の攻撃力や肉体を今の体に付加させるもので所謂回帰に近い。君たちは違うのだろう?卍解する事で元々持っていなかった能力や力が付与される。全く逆の性質さ。」