第13章 破面編(前編)
「記憶も、経験も……。」
「アァそうだ、お前と何をしていたのかも、コイツがお前に対してどんな感情を抱いてたのかも手に取るように覚えてるぜ。」
「……そう。」
「何だ、嬉しく無いのか?大好きだった志波海燕とまた逢えたんだ。もっと喜べよ。ゆうり。」
「海燕さんはそんな事言わない。貴方は海燕さんじゃない。…でも教えてくれて嬉しいわ。探す手間が省けたもの。」
「何…?」
「貴方を忘れた事なんて無い。絶対に取り戻すと決めていたから。例え彼が嫌がっても、私はもう一度あの人に会いたいの。」
「だから今、会ってるだろ?目の前に居るじゃねぇか。……何をする気だ、オイ!」
ゆっくりと立ち上がるゆうりのただならぬ雰囲気に彼は焦りの色を見せる。殺気とは違う、何をしでかすのか分からない彼女にただ恐怖した。ゆうりは静かに斬魄刀を両手に持つ。
「…貴方が殺したかなんて、もうどうでもいいの。返してよ、海燕さんを返して。卍解。"刹月狂…"」
「待て。」
卍解を終える前に、斬魄刀の先に手が乗せられる。そっと下げられ咄嗟に振り返るとそこに立っていたのは先程置いて来たばかりのウルキオラだった。
「好きにしていいとは言ったが、十刃に斬魄刀を向ける事は許さない。」
「殺さない!海燕さんを引き剥がすだけ!止めないで!!」
「十刃の能力を削ぐことも許されない。お前が刃を向けるというのなら、俺は今すぐにでもお前とその仲間達を殺すことになる。」
「ッ…!!」
斬魄刀を握る手に痛い程力が篭もる。天秤に掛けられるはずがない。かつて敬愛していた相手と、今を生きる仲間を。
噛み締めた唇が切れて口角から血が伝う。
「……絶対、絶対に、貴方から海燕さんを奪い返すわ。」
「…させねぇよ、コレはもうオレのだ。」
斬魄刀を鞘に戻し、深く溜息を零す。
…多分、彼がアーロニーロだ。初めて顔を合わせ時とは全く様子が違うけれど。そして、私がここに来るように仕向けたのは、絶対にギンだ。本当に性格が悪いなんてものじゃない。私が怒ると分かってて、やっているのだろう。
足早に踵を返したゆうりの後をウルキオラは追う。
「何故怒る。とうの昔に殺された男だろう。」
「私がとても敬愛していた人だからよ。身体が良いように使われて、怒らないわけが無いでしょう。」