第13章 破面編(前編)
それから、市丸の霊圧を辿り虚夜城を歩き回る。…が、どこか変だ。一向に近付いている気がしない。離れてる訳では無い、が、近くもない。それになんだか同じ道を歩いてるような気もする。あまりにも代わり映えがなさ過ぎて分かりにくいが。
「もう…どうなってるの…!」
部屋に戻ってしまおうか。そんな事を考えている内に、真っ暗な部屋が見えて来た。ここだけやけに暗い。まるで夜のようだ。
少しだけ今までと違う景色に期待をしてしまった。そしてそれを直ぐに後悔する事になる。
1歩踏み出す毎に広くぽっかりと空いた空間に足音が響く。
「ここは誰かの部屋なのかしら…?」
だとしたら無言で入って来てしまった事になるのだが。軈て真っ暗な室内に目も慣れて来た頃、ポツンと佇む人影が見えた。その姿に心臓がドッと逸る。スラリと伸びた高い身長。一護とよく似たツンツンの髪型。少しタレ目気味な目元に長い下睫毛。忘れた事など一度も無かった。
「……海燕、さん…?」
「ゆうり……?」
絞り出すような細い声に彼はあっけからんと答える。微かに感じる霊圧も、声も、紛れもなく彼のものだ。片手を海燕に伸ばした所で記憶が一気にフラッシュバックする。
ルキアから聞いた話では、彼は消えてしまったと言っていた。そして、蘭は虚と海燕さんが混ざったと言っていた。あの時の会話と苦しみが頭の中で反芻されて踞る。その記憶の全てが、今目の前に居る彼の存在を否定した。目尻が熱い。こんな形で会いたくなど無かったのに。
そんな彼女を見て海燕は駆け寄り隣にしゃがみこんで背を撫でる。
「ゆうり!おい、大丈夫か?」
「……その、声で…」
「ん…?」
「その声で!私の名前を呼ばないで!!」
斬魄刀を抜き、海燕を目掛け横に薙ぎ払う。しかし彼女の殺気を知ってか彼は難なく後方へ飛び逃げた。
「っと…危ねぇなぁ。そう怒るなヨ。会いたかったんダロ?オレに。」
「黙れ!!お前が海燕さんを殺したのでしょう!」
「……チッ…何だ、もう察しがついたのか?理解が早い女だなァ。だが正確には違う。志波海燕を殺したのは「メタスタシア」だ。死して崩れ虚圏に還ってきたメタスタシアを、オレが喰らった!ヤツの能力だった霊体融合能力ごとな!!だからオレには志波海燕の経験も、記憶も、全てそのまま残っている!」