第13章 破面編(前編)
「信頼の証だと言っただろう?君の力は"逆行と創生"…その力は神にも近い。時間とは本来如何なる手段を用いようと干渉出来るものでは無いのだからね。力が強い者、或いは他者を巻き込んだ逆行や創生は規模が大きくなる程必要な霊力は相当なものになるだろう。限度が有るのも当然の事だよ。…とはいえ、この制御装置を全て外した状態の君の霊力ならそれも可能だとは思うが。」
「…どうかしらね。」
「シラを切るつもりならそれも構わないさ。いずれにせよ、その力をこれからは私の為に使ってくれるね?ゆうり。」
「えぇ、仰せのままに。」
喉元に下がるネックレスに藍染の指先がそっと触れる。ゆうりは言葉とは裏腹にその手を咄嗟に払った。
もうここ数年…いや、初めて喜助にこれを渡されてから一時すら外した事は無かった。それが喜助との約束だったから。阿近に作ってもらった指輪とは訳が違う。
これを外した時、どれ程の霊圧が溢れ出るのか自分でも想像が出来ない。…けれど多分、外せばこの目の前の崩玉を造られる前に戻せる可能性は、ゼロではない。それは何となく感じた。かつて兄はこの世界を私が死んだ時まで遡り、ましてや自分を斬魄刀に根付かせる事まで成功させているのだ。そんな彼の霊力を一身に受けた自分の霊力が低いわけが無いのだから。
「…君は本当に昔から変わらないな。もう少し私に対しても気を許して欲しいものだ。」
「貴方がこちら側に戻ると言うのならいくらでも。」
彼女の言葉は想定していなかったのか、藍染は何も言わずにただ瞠目した。
未だ私が死神側に戻る事を望むのか。散々傷を付けてきたはずだ。浦原を含め彼女の信頼する死神たちを現世に逃亡させ、彼女にとって宝であろう同期を殺そうとし、最後は彼女自身を全ての死神から孤立させたというのに。
「…なんですか、気味が悪いので黙らないでください。」
「…それが捕虜としての言動だと思うと愉快だと思ってね。」
「へりくだった方が良いかしら。」
「いや、君はそのままでいい。もう戻ってもらって構わないよ。」
「そう。私ギンに呼ばれてるの。部屋には勝手に戻るわ。またね、ウルキオラ。」
「好きにしろ。」
彼の言葉はまるで、一々報告するなとばかりに聞こえた。お目付け役の筈なのに、好きにしろとは。可笑しくて少しだけ笑いながらゆうりは部屋を出た。