第13章 破面編(前編)
そう言うと彼は畳の上に座る。浦原も遅れて向かい合う形で座ると、2人の顔を見てから蘭雪は重い口をゆっくり開く。
元々封じていた筈の死神達が敗北した世界での記憶、そして蘭雪自身の記憶を取り戻してしまったこと。それにより、自分は再び死神としてこの姿に戻ってしまった事。
話を聞いた浦原と阿散井は呆気に取られる。俄に信じられない。
「特殊な斬魄刀だとは思っていたんスけど、ここまでとは…。」
「ゆうりが馬鹿みたいに強いのは、2人分の霊力が有るからだったのか…。」
「それも有るが、多分俺より胡蝶蘭との相性が良かったんだろうな。」
「何故貴方はゆうりの記憶に蓋をしたんスか?」
「俺はあいつに生きて欲しいってエゴで自分の力を勝手に押し付けて来たんだ。その結果、膨大な力を手に入れたアイツは藍染から目を付けられて、ずっと、何度も、苦しい思いをさせちまった。もちろん、あいつが力を手に入れたお陰で救えた命もあったよ。けど、そんな身勝手な兄の事なんて本当は最後まで忘れてる方が良かった。それに、誰だって自分が死んだ時の事なんて思い出したくもないだろ。全部蓋してやった方が、ゆうりにとって良いと思ってたんだ。」
「なるほど…。」
彼女は肉親である母との関係はかなり悪かったと聞く。愛情を知らぬまま育った筈の彼女の記憶に、唯一愛を注いでくれていた兄の存在が突然浮かび上がったら、どうなるのだろう。彼女の中で、何かが変わるのだろうか。浦原は心の内でそんな事を思う。
しかし今は、それどころでは無い。
「…ゆうりが連れ去られたという事は、アチラさんの準備が早まる可能性がありますねぇ。」
「その通りだ。だから現状を報せる為に俺が急いで現世に飛ばされた。既に成体は10体以上。どれも強さは並大抵じゃない。席官でもキツいだろうな。」
「10体…以上…!」
「まずいのはそれだけじゃあない。ゆうりの斬魄刀の力で、崩玉を無理矢理活性状態に出来るかもしれないんス。そうなったら尸魂界はいよいよお終いだ。」
「なッ…!じゃあ直ぐに乗り込んで…!」