第13章 破面編(前編)
腰に刺さった刀を抜いている。…が、何も感じない。斬魄刀ではあると思うがまるで抜け殻のように何も、誰も、居ない。それならば今ここにいる自分は一体何者なのだろうか。胡蝶蘭が居ない今、この刀は再び己の魂を映し出してくれるのだろうか。…答えは分からない。
「まぁいいや…とりあえず、浦原喜助に接触するか…。」
今この現世で自分の姿を知るのは、浦原だけだ。白哉も居れば話は早かったがそう甘くは無い。蘭雪は抜いた刀を鞘に戻し、浦原商店へと向かう。
「ここか…。」
"浦原商店"と書かれた看板はもう何度も斬魄刀の中から見た光景だった。中には浦原だけではなく阿散井の霊圧も感じる。
入るの躊躇っていると、異質な霊圧を察したのか向こうから扉が開かれた。顔を出したのは、この店の店主だ。彼はそれはさぞ驚いたように目を見開く。
「貴方は…その姿……。」
「火急の要件がある。阿散井も居るだろ。入れてくれ。ゆうりの事だ。」
「……なるほど。いいでしょう。」
彼が、ゆうりを連れず1人でここに居る。それだけで嫌な予感がするのは当然だ。
思わず手に拳を作る。迂闊だった。藍染が狙うのは、井上だとばかり思っていたのに。まさかこんなにも早くゆうりを狙いに来るとは思っていなかった。彼は自分が考えている以上に、彼女に執着しているのかもしれない。
居間に通された蘭雪は座っていた阿散井と顔を合わせる。真っ赤な髪をした男は初めて見る死神の姿に目を見開く。今空座町に派遣されている死神は自分らだけの筈だ。それならばこの男は一体誰なのか。
「紹介しますよん、彼は胡蝶蘭。ゆうりの斬魄刀だ。」
「は!?斬魄刀!?何で死神のカッコしてやがんだ!つーかアイツは!?」
「もう胡蝶蘭じゃない、蘭雪と呼んでくれ。俺にとっても想定外の事なんだよ。死神に戻った事も、ゆうりが破面に捕らわれるのも。順を追って説明するからとりあえず聞いてくれ。」
「アナタ、随分雰囲気変わりましたねぇ。もっと物腰柔らかかった気がするんスけど。」
「ゆうりが過去を思い出した。なら俺も猫を被る必要無い。」
「何がどうなってんだよ…!日番谷隊長達も呼ぶか?」
「必要無い、俺は早く総隊長殿と話をしたいからな。阿散井から伝えてくれ。」