第13章 破面編(前編)
スタークが白い手袋を外すと、手の甲には確かに"1"と書かれている。とどのつまり、十刃の中で最も強い男であることを示していた。まさか最初に話し掛けた人物が1番上であるとは思ってもおらず目を丸める。
「…ウルキオラが1番なのかと思ってた。彼で1番じゃないって、貴方相当強いんじゃない…?」
「さぁな。俺は出来る限り争いごとは御免だ。荒事もな。」
「意外ね、十刃は誰でも血の気が多いものだと思ってた。特に、1番なら尚更。」
「わざわざ争って何の得になる?死にたくねぇし、仲間も死んで欲しくねぇんだよ俺は。気が済んだらさっさと他ん所行け。」
そう言うと、スタークは再びクッションの中で寝転んでしまった。
…まさか、虚からそんな言葉が出るなんて。仲間に死んで欲しくない、そんな事を思うなんて。想像したこともなかった。
「…貴方、優しいのね。」
「孤独が怖いだけだよ。」
そう、俺たちは孤独を最も恐れる。一人は嫌だ。傍にいるだけで死んでいく仲間も見たくない。だから、俺と同じくらい強い奴が集まるここに来た。これは優しさなんてもんじゃ無い。ただの俺のエゴだ。…にしても、随分喋っちまった。この女が、十刃を前にしても怯える素振りすら見せず、まるでトモダチにでも話し掛ける様に普通に会話するから、つい。
これ以上話す事は無いとばかりに彼に背を向けられゆうりは立ち上がる。思っていたより、色々話してくれたな。呑気にそんな事を思う。
「お話に付き合ってくれてありがとう、スタークさん。リリネットちゃん。良ければまたお話してね。」
「あたしが暇だったら付き合ってやる!」
「なんでちょっと懐いてんだお前。」
両手を腰にあててふんぞり返るリリネットに笑い、彼らに背を向けウルキオラの霊圧を頼りに与えられた部屋へ戻ろうと踵を返した。
一方、現世へ飛ばされた蘭雪は、空座町に降り立っていた。送られる直前、ゆうりから渡された総隊長へ渡す予定の書簡は懐に入っている。既に夜も明けており霊圧を探ると、こちら側での戦闘は終わったようで衝突は感じられないものの、死神達が消耗している事は分かった。
「はぁ……まさか本当にこの姿で現世に来る事になるとはなぁ。というか、俺の斬魄刀はどうなってんだ?浅打か?」