第13章 破面編(前編)
彼の言う通りだった。死神といえどしっかり食べないと次第に弱っていく。だが…このパンの出処は?スープの食材は何処から?まともに買い物をする事が出来ない彼らの入手方法は余りにも想像に容易い。
ゆうりは首を小さく横に振ると懐から腕輪を取り出し利き手とは逆の手首に装着した。
「私はいらない。涅隊長から貰った食べなくても死なないブレスレットが有るから大丈夫。」
「キミほんまに何でも持ってはるなぁ。」
「喜助が私を大切にしてくれていたんだもの。ギンはわざわざ何しに来たの?」
「これを渡しに来たのと、意地悪しに。」
差し出されたのは、市丸や破面たちが着ているものと同じ白い服だった。ゆうりは思わず顔を顰める。確かに自分は仲間になる事を前提にここまで来た。それならば拒む事は赦されない。分かっていても手を伸ばす事を躊躇ってしまう。
「もしかして着方分からんのん?しゃあないなあ、ボクが着せたるわ。」
「ちょ…違う、違うから。着るわよ…。」
市丸の、服を持たない方の手が首元に伸ばされ、少し冷えた指先が襟元を引っ掛け肩側に向かってはだけさせる。彼女は慌てて静止すると、渋々服を受け取った。けれど彼はその場から動かず今もゆうりを見ている。
「…あの、着替えるって言ったわよね?」
「ちゃんと着替えるか見ておかんと。」
「見られてると着替えにくいのだけれど。」
「もう裸まで見た事有るのに?」
「……!覚えてない!」
「嘘吐きや、顔真っ赤にして言うこととちゃうよ。」
「…もうっ、本当に何しに来たのよ!」
「言うたやろ、意地悪しに来たって。」
悪びれなくケラケラと笑う市丸にゆうりは口を噤む。この男、本当にからかいに来ただけだ…。そう思うと自然とため息が零れた刹那、手首が掴まれ引き寄せられた。そして耳元に唇が寄せられ、そっと囁く。
「ギン…?」
「明日、ボクの部屋に来や。待っとんで。」
それだけ言うと身体を離し、長い髪をひと房掬い上げ恭しく口付ける。以前尸魂界で見た光景と重なって見えた。同時に、瞼から覗く空色の瞳と目が合い、先程精神世界で見た惨劇が脳裏に浮かぶ。藍染に殺された市丸の姿が、生々しい程にはっきりと。