第13章 破面編(前編)
それと同時に、記憶にある過去とは全く異なる道を今は歩み始めていることにも気が付いた。
一頻り泣いた後、落ち着きを取り戻した彼女は鼻をすすり、真っ白な床に座り込む。
「…胡蝶蘭はこれからどうなるの?蘭雪の斬魄刀に戻るの?」
『戻らんよ。妾はこれからもゆうりと共に居るぞ。それにそもそもこの男は本当に米粒1つ分程度の霊力しか戻っておらんからな。瀞霊廷に戻らんと何も出来んじゃろう。』
「譲渡された霊力を私が返せば良いんじゃない?」
『良いわけねぇだろ。その力はもうゆうりのものだ。自分の為に使え。』
「それじゃあどうすれば…。」
『卍解で蘭雪を尸魂界まで飛ばすのじゃ。兎にも角にも主はこのままだと、再び尸魂界を裏切った死神とされるぞ。』
「飛ばすって、そんなこと出来るの?」
『俺の身体を1度崩して尸魂界で再構築させれば良い。…とはいえ、相当霊力のコントロールが必要だ。無理なら現世でも上出来だな。』
「…分かった。やってみる。」
小さく頷くと、胡蝶蘭は桃色の花弁となり散っていく。先程見た過去と同じ様に、斬魄刀を構える。
…胡蝶蘭はこの先も自分と共に歩み続けてくれると云った。蘭雪はその力を自分の為に使えと云った。私は2人の想いに応える義務がある。二度と過ちを犯さないように。
「卍解。"刹月狂乱華"。」
ゆうりの死覇装が白く染まり、無数の薄桃色の花弁が蘭雪を中心に渦を巻く。彼は花弁の中で自分の体が解ける様に散っていくのを感じる。とても不思議な感覚だった。目の前で、己が死んでからの事、死神となりゆうりに会いに行っていた日の事、そして彼女に背を預け共に戦っていた日の事、最後に斬魄刀として誰よりも傍で見守って来た日々が、花弁1枚1枚に浮かび上がる。懐かしくも、全てが愛おしかった。始まりから今に至るまで、自分の選択に後悔のひとつも無いのだ。
彼は誰に悟られる事無く口元に笑みを浮かべると、瞼を降ろし溶け行く意識に身を委ねた。
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