第13章 破面編(前編)
「けど…なんで蘭雪は死神になったの…?それに私と歳も離れてる…。」
『俺は産まれる前に死んで、そのまま尸魂界に送られたからな。魂魄の成長速度はみんな違うだろ?俺は早かったから、ゆうりが産まれる頃には幼稚園児位に成長してたし、お前が幼稚園児になった頃にはもう小学生程度になってたんだよ。そんで死神になってから、ゆうりに会いにいくようになった。』
「…そうだったのね。」
死んでからは、蘭雪と同じ死神の道を歩み始めた気がする。けれどその時の自分は今程霊圧は高くは無く、一般隊士より少し強い位だった。それと比べて彼は、隊長クラスに強く、破面との戦いにも駆り出された。
私はそれに無断で着いて行ったのだ。兄に死んで欲しくなくて、ただその一心で力など無いくせに戦争に加わった。そして案の定、自分が命を落とした。けれどそれで良かったのだ。結果兄は生き延びたのだから。
「…私の斬魄刀は、元々流水系の斬魄刀だった。蘭雪…あなた、あの卍解で私に何をしたの…!?」
『胡蝶蘭と1つ契約を結んだ後、卍解を使って俺の霊力を全てゆうりに譲渡した。その上で回帰能力を使ってお前が現世で死んだ直後まで時間を遡ったんだよ。』
「契約…?」
『蘭雪は主の記憶から自分との記憶を消し去る事を望んだ。それでは此奴があまりにも報われんじゃろうて。じゃから、この斬魄刀に住まわせる代わりに、もしも主が本当の名前を思い出した時、ここから放り出す約束をしておった。』
『…まさか本当に思い出すなんてな。忘れたままで良かっただろ。自分が死んだ時の事まで思い出すなんて酷じゃねぇか……っと。』
ゆうりは立ち上がると迷わず彼に抱き着いた。蘭雪は両腕を背後に回し、胸元に頭を押し付け涙を流す彼女の頭を優しく撫でる。
「ごめんなさい…!私は生きている頃からずっと…貴方から全部…全部奪ってしまった…!!」
『気にしてねぇよ、言っただろ?俺にとってたった1人の家族なんだ。お前が俺に生きて欲しいと願ったのと同じ様に、俺もお前に生きて欲しかったんだよ。』
それから、頭の中にとめどなく流れ込む過去の記憶に声を上げて泣いた。死神になって兄と過ごした、今とは異なる日々の記憶も、今以上に無策で無鉄砲な自分の弱さにも涙が止まらない。