第13章 破面編(前編)
瞼を降ろし、持ち上げる。するとそこには覚えのない光景が拡がっていた。そこは多分、空座町だった。辺りは激しい戦闘があったのか、建物の殆どが壊れており、血痕が飛び散り、明らかに死神と思われる死覇装の切れ端や、人の身体の1部と思われるものが落ちている。その中には信じられない事に、血塗れで倒れるゆうりの姿もあった。
ここは恐らく、以前彼から聞いた死神が敗北した未来なのだろう。死んだ私の傍らで、蘭雪と胡蝶蘭が静かに向かい合っている。
『……蘭雪。本当に良いのか?この斬魄刀と1つになれば、ゆうりが主の事を思い出さぬ限り2度と死神に戻る事は叶わぬぞ。』
『それでもいい。俺はゆうりの傍に居たい。俺の死神の力も、全部預けるって決めたんだ。』
『そうまでして何故この娘を護る?』
『決まってるだろ?顔も見せずに死んじまった俺に気付いてくれた、たった一人の大事な家族だからだよ。妹を護る事が出来るなら…こいつが自分を守れるくらい強くなってくれるなら俺はなんだってする。』
蘭雪は既に命を落としたゆうりの頭をゆっくりと撫でた。そんな彼に胡蝶蘭は瞼を伏せ、口を開く。
『……腹を決めているならば構わぬ。妾も1人では退屈じゃからの。卍解を使うがいい。主が望む世界を創れ。』
『ありがとう、胡蝶蘭。』
胡蝶蘭の姿が花弁のように崩れていく。真っ白なそれは軈て蘭雪の手元に集まり、刀へ形を変える。彼は柄を握ると、両手で構えた。
──俺はこの霊力の全てをゆうりに注ぎ込み、胡蝶蘭の中へ魂魄を移す。空っぽになった俺が出来ることは何も無いだろうけど、せめて行く末を見守らせて欲しい。次は、凄惨な未来を避けられるように。決して死なないように。生きてくれ、ゆうり。
『──卍解。"刹月狂乱華"。』
彼の詠唱を聞いた途端、パッと意識が引き上げられる。急いで身体を起こすと胡蝶蘭と蘭雪が変わらずそこに立っていた。
『思い出したじゃろう。過去も、別世界の出来事も…主が何故、そこまで膨大な霊力が有るのかも。』
「思い…出した……。」
私は元々霊力が高くて、霊が見えていた。それを気味悪がった母から嫌われ、疎まれていたのも思い出した。そんなある日、彼は突如現れたのだ。自分の兄だと名乗る彼に、なんの疑いも持たず懐いていたのを覚えている。