第13章 破面編(前編)
「…ここで大人しくしていろ。隣が俺の部屋だ。用があれば来い。」
「貴方とお喋りをしに行くのは?」
「くだらない事で来るなら部屋の扉を閉める。」
「それは困るわ。ギンとも話したいし他の破面とも話したいもの。」
「…好きしろ。藍染様よりそう仰せつかっている。反抗しなければそれで良い。だが少しでも妙な気を起こせば、ここから出られなくなると思え。」
「……好きにしてもいいのね。」
適当にあしらおうが怯まず、まるで友人にでも話し掛けるかのような態度にウルキオラは瞼を伏せ部屋を出た。
…あの女の事が理解が出来ない。何故そうも虚と関わろうとするのか。何か企てているのか。まさか、絆されるとでも思っているのだろうか。だとすればあまりにもおめでたい頭だ。…いや、あの女の眼はただ、純粋な光。闇にも溶けない。鬱陶しい、眩し過ぎる。いっそ不快なまでに。
そんな思いを内にウルキオラは部屋に戻った。
「……何も無いのね、虚圏って。」
一方、部屋に残された彼女は辺りを見渡す。真っ白な壁に真っ白なソファ。格子のついた窓から見えるのは恐らく外ではあるが、暗闇の中にぽっかりと浮かぶ三日月だけ。閑散とした様子に寂しさすら覚えた。
自分の呼吸と足音しか響かない静けさの中でソファに歩み寄る。座ってみると意外にも柔らかい。ゆっくり息を吐いて天井を見上げたその時だった。
『ほれみろ、妾の言うた通りじゃろうて。』
「誰!?」
突如誰も居ない筈の空間に、女の声が響いた。聞いた事がある様な、無いような。知っているようで、知らないような。不思議な感覚に胸がザワつく。
『畏れるな。妾を見ろ。』
その瞬間バチッと視界が白く飛び、ゆうりの意識は足元から何かに引きずり込まれるようにして途切れる。身体が傾き、ソファへ沈む中、黒い死覇装に身を包む男の影を見た気がした。
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