第13章 破面編(前編)
「彼女の世話は任せるよ、ウルキオラ。部屋へ連れて行ってくれ。」
「…はい。」
「待って。私はウルキオラとヤミーの名前しか知らないわ。ここで過ごす以上名前くらい聞かせて欲しいの。」
素直に引き返そうとはしないゆうりの様子に1人の男が苛立たしげに椅子から立ち上がる。黒く長い髪に細身の男は彼女の前まで歩み寄ると挑発気味に顔を覗き込ませ喉元を指先で小突く。
「はァ?てめぇ自分の立場分かってんのか死神。知る必要なんてねェよ。」
「破面は知能が高いと聞いていたのだけれど、ろくに名乗る事も出来ない個体も居るのかしら?」
「ア…?今すぐ此処で殺してやろうか女。」
「試してみる?」
「こないなとこで喧嘩せんと。名前位教えたらええやん。ゆうりも挑発したらアカンやろ。」
「チッ…。」
「…分かってる。」
藍染が見ている手前、好き勝手は出来ないのだろう。止めに入った市丸に彼は舌打ち1つ残して椅子に戻りドサリと腰を掛けた。
市丸曰く、彼はノイトラ・ジルガと言うらしい。他ここに居るのはコヨーテ・スターク、バラガン・ルイゼンバーン、ティア・ハリベル、ウルキオラ・シファー、ゾマリ・ルルー、ザエルアポロ・グランツ、アーロニーロ・アルルエリ、ヤミー・リヤルゴ…この9名がこの場に集まる十刃の名前だ。残りのグリムジョー・ジャガージャックという者がどうやら無断出撃をしている様で顔を合わせる事は叶わなかった。
「ついてこい。」
「…えぇ。よろしくね、ウルキオラ。」
ある者は興味も無い顔で、ある者は新しい玩具でも見つけたかのような顔で、そしてまたある者は表情が変わらずとも残虐な悪戯を思い浮かべる。そんな彼らを背に2人はその場から踵を返し、王座の間を後にした。
「……。」
「この前ヤミーと一緒に現世に来ていたけれど、貴方は十刃を取り纏めているの?」
「…。」
「あ、今更だけどウルキオラって呼んでも大丈夫だった…?」
「…。」
ウルキオラは部屋に向かう道程の中で必要以上の会話をしようとはしない。世話係を押し付けられたのが不服なのか、それとも会話が苦手なのか、他人に興味が無いのか…理由は分からない。分からないからこそ、彼ら破面の事も知りたいと思った。