第13章 破面編(前編)
静かにヤミーの元へ歩み寄ると、切り落とされた箇所へ両手を充てる。ぼんやりとした柔らかな光が包み込めば外から見えずとも骨から筋、表皮と少しづつ、先刻の戦闘前の状態へ回帰していく。その過程で腕を繋ぐ糸すら最早不要とばかりに光の中で溶けて消えた。ただの回道とは異なる治癒の仕方に藍染は頬杖をつき興味深そうに瞳を細める。
「気分はどうだい?ヤミー。」
「…問題ねぇな。」
光が消えると感覚の戻った腕を持ち上げ拳を握っては開き確かめる。一切の不調も感じない。戦う前と同じだ。
「改めて問おう。ゆうり。君の卍解の能力は?」
「………。」
ズン、と重量そのもののような重い霊圧が一帯を包む。その重さと空気に膝を崩しても可笑しくは無い。それは周りを囲む十刃すら冷や汗が伝う程だった。
しかし彼女は表情1つ崩さない。霊圧を受けて尚、ただ無表情で押し黙り思考を巡らせ斬魄刀の柄を握る。全てを伝えてしまえば、どれほど利用されるか分からないまでに特殊な力だ。ここに来た以上避けられない事だとは思っていたが、躊躇う。
少しでも、隠せる事があれば…。
「何を躊躇う事がある。私の元に下った時点で、君は私の駒だ。答えなければどうなるか位は理解しているだろう?」
「…分かってるわ。私の斬魄刀の能力は見せた通り回帰の力が飛躍的に伸びるの。卍解している状態なら、今より複雑な…死んだ魂魄だろうが、虚だろうが生きてる状態まで戻してあげる事も出来る。条件は有るけれどね。」
「なるほど。だがそれだけでは無いだろう。ただの回帰なら私の鏡花水月を克服するのは難しい。」
「……鏡花水月の始解を見た時の記憶を削除して、始解を見ていない自分に作り替えただけよ。」
「矢張りそうか。回帰に加え創造とは…死神という存在でありながら、真逆の性質…正に神の力だと言っていい。だがこれからは私の為に、その力を使ってくれるかい、ゆうり。」
「…仰せのままに。」
そう言うと彼女は深く頭を下げた。僅かに持ち上げられた相貌は、頭を垂らした者とは思えぬ程反抗的に見える。隙さえ有れば直ぐにでも喉元へ喰らわんとする姿に藍染は薄く笑う。
このまま部屋すら与えず、私の手元に置き飼い殺す事も考えたが、彼女は好きに泳がせておく方が恐らく面白い結果を残すだろう。