第13章 破面編(前編)
少し背を屈めた彼の鼻先が首筋に擦り付けられる。その擽ったさと図星をつかれた事にギクリと肩を揺らした彼女は気まずそうに視線を背けた。彼はあまり気にしていないのか、はたまたただひた隠しているだけなのか笑う。
「全く、朝帰りとはゆうりも悪い子になりましたねぇ。またお灸を据えてあげましょうか。」
「……それは遠慮しておくわ。ねぇ、今すぐそこに恋次も来てるの。喜助に会いたいそうよ。」
「え〜…ボクは尸魂界の副隊長サンに用なんてないんスけど。」
「あら、じゃあ私も貴方に会わなくて構わないよね。」
「ちょ……ゆうりは別でしょう!」
ゆうりが互いの身体の間に掌を滑り込ませて胸板を押し返そうとすれば、浦原は反射的に抱きしめる腕の力を強める。その慌て様がおかしくて静かに笑うと彼は不服そうに眉を顰めつつ、懐から1枚の紙を取り出す。
「阿散井サンは後で見に行きます。戻って来て早々こんな頼み事はしたくないんスけど、ゆうりはこの書簡を総隊長サンに渡して来て貰えますか?おそらくこれが、ボクから送る最後の書簡になります。」
「もとよりそれが私の仕事だから。」
浦原の拘束が解かれるとポケットに仕舞われていた義魂丸ケースを取り出し小さな丸薬を飲み込む。死神姿に戻った彼女は、書簡を受け取り斬魄刀を抜いて何も無い空間へ突き刺す。するとどこからともなく黒い蝶が1羽ひらりと羽を揺らして現れた。
「解錠。」
「よろしく頼みますよ。」
「任せて。あんまり私の友達に意地悪しないでね。」
「…善処はするっス♡」
浦原ははぐらかすように開いた扇子で口元を隠す。斬魄刀によって現れた丸い扉を潜るとゆうりは小さく掌を振ってその奥へと消えていく。そんな彼女を見送り、彼も踵を返した。
門を潜ったゆうりは、現世と尸魂界を繋ぐ間で斬魄刀を鞘に納めて一息つく。なんだかんだ行ったりきたりとバタバタする日々が続いたな。
そんな想いを抱きながら、走り始める。すると不意に、空気が軋む音がした。
「1人とは随分都合がいいな。」
「………!破面…!?」
背後から聞こえて来た声に振り返ると何も無い空間に横1本の線が走る。それは次第に上下に拡がり、その奥から一人の男が顔を出す。