第13章 破面編(前編)
「縁起でもない事言わないでよ。私も貴方も死なないわ。死なせない。」
「絶対なんて無いねん。それはゆうりもよう分かっとるやろ。」
「それは…そうだけれど。」
皆それぞれそこの戦争に、抱く想いや不安が有るのだろう。当然自分にだって有る。だからこそ、誰もが悔いの残らない選択をしているのだ。彼は…起こりうる最悪を見越して今、彼女に想いを伝えたらしい。それならば、己も見合う言葉を返さなければならない。目蓋を伏せ彼と今まで過ごした時間を思い返す。
平子もそれを察してか何も言わず相貌を見下ろす。数秒の間を置いて彼女は目蓋を持ち上げ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……私も真子の事は好きよ。貴方の優しい所も、ストレートな物言いも、強引な所も、凄く仲間思いな所も…一途に想ってくれる所も好き。好きだけれど、応えはお預けにしておくわ。聞きたかったら生き延びて。」
「…それ他の男にも言っとんの?」
「似たような事は…ね。例えばもし、今誰かと付き合ったとして。私は無意識にその人を優先してしまうかもしれない。それは絶対に嫌だから。それに…」
今こんなにも色んな人に愛されている自覚が有るというのに、私は今も人の愛し方が分からない。…たった1人の人と真剣に向き合うのが、怖い。今みたいに誰の手も取らず恋愛ごっこをしているぬるま湯が心地好いのだ。
突然言葉を詰まらせ、視線が忙しなく逡巡する彼女に平子は小首を傾げる。
「それに、どうしたん。」
「……真子が好きな私は周りから良く見られたいと思って、繕っている私だよ。本当の私はもっと嫉妬深いかもしれないし、わがままかもしれないし、母みたいに浮気性かもしれないし、甘えたかもしれないし…好きになった人に幻滅されて、嫌いって言われて…別れる事になんてなったら立ち直れる自信だって無い。」
決して視線は合わせず逸らされたままポツポツと吐露される本心に平子は数度瞬きを繰り返す。
そういえばコイツは、母親からの愛情を知らず育ったんやっけ。当たり前に注がれる筈の愛情を与えられる事無く、寧ろその逆の感情を向けられて過ごしたからこそビビっとんのか。…それにしてもまァアレやな。
「エー……。」
「な、何で溜息つくの!私だって真剣に考えて悩んでるのに…!」