第13章 破面編(前編)
窓から射し込む光にゆうりの瞼がぴくりと揺れる。眠気を纏ったままゆっくり目を開くと視界を埋めるのは未だ穏やかな寝息を立てて眠りにつく金髪の男だった。
片腕は枕代わりに、隻腕は腰にしっかり巻き付けられていて離れる事が出来ない。そういえば昨日は、あのままお互いの近況や卍解の事など話している内に一緒に眠ったんだったな…そんな事をぼんやり考えながら端正に整った顔を見詰める。
「…真子、起きて。」
「ん…まだえぇやろ、もうちょいこのままでいようや。」
「ダメ、今日は尸魂界から皆来るし合流しないと。」
「益々嫌やねんけど。」
「ぐぇ、ちょっ…苦しいんだけど!」
平子は瞼を閉ざしたまま腰に回した腕に力を込め直す。深まる密着の照れ隠しに大袈裟な声を上げても腕の力は変わらない。
彼女は数秒そのままの体勢で居ると小さく息を吐いた。そして柔らかそうな金糸に手をぽんと乗せ絡まない程度に優しく指を通して撫でる。
「暫くは直ぐに会えるでしょう?朝ご飯作るから離して。」
「オレと付き合う気になったなら離したるわ。」
「随分無茶苦茶な事言うようになったわね。」
「多少無茶な事言わんと靡きもせんやろオマエは。」
以前に似たような事を言われたな…。今度はそんな事を思いながら彼と視軸を絡める。平子はあまり人に頭を撫でられるというのは経験が無いものの、その指先の動きが何となく心地良いと思った。
「離したってもええで。けどその前に1つだけオレの話真面目に聞いてや。」
「何?改まって。」
「オレはオマエが好きや。」
「……え、ま、待って。」
「聞け言うとるやろ。逃がさんぞ。」
細い両手首を無骨な手指が捕えシーツに抑え付けられる。体躯を跨ぐ彼に見下ろされ顔を隠す事も、ましてや逃げ出す事も出来ない。戸惑いの表情を浮かべる彼女をよそに、平子は真剣な眼差しを向けた。
「オレはオマエが好きや。真面目過ぎる所も、甘っちょろい所も、不器用な所も、一生懸命な所も全部ひっくるめて好きやと思うとるし、オマエが向ける愛情はオレだけのものにしたい。この戦いが全部終わってお互い生きとったら、オレの恋人になって欲しい。」
「………何で今そんな事を言うの?」
「これから起こるのは正真正銘戦争や。誰が生きて誰が死ぬかなんざオレにも分からん。オレは後悔したァないからなァ。今の内言うとこ思うて。」