第3章 真央霊術院編
「修兵。」
「ん、なんだよ。」
「私ね、友達だと思ってた人にいきなりキスされたの。びっくりしたし、怖かった。忘れたくても簡単に忘れられないし、思い出すと恥ずかしくなっちゃって…。」
「は!?キス!?」
「うん……修兵達に言いにくくて。なんであんな事されたんだろう、とか色々考えてたらぼんやりする事が増えちゃったんだと思う。ごめんね。」
檜佐木は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。好きな人ができた、では無かったのはまだ良い。しかし同意も無くことに及び、彼女を怖がらせた相手が居るというのが許しがたかった。
「…ゆうりは、ぼんやりしてるから俺が怒ったのかと思ってるのか?」
「ううん、多分違うと思う。」
「え…。」
「もしかしてなんだけど……修兵、やきもち妬いてくれたの?」
「ッーー…!!」
顔を覗き込まれ翡翠の瞳と視軸が絡む。思わぬ図星を突かれた檜佐木は途端に顔が熱くなるのを感じた。その反応を見てゆうりは僅かに頬を緩めて笑う。
「あたり?」
「…蟹沢だろ、吹き込んだの。」
「教えてくれたのはほたるちゃんだよ。自分で気付くことが出来なくてごめんね。」
「お前が鈍いのは結構前から知ってる。」
「また意地悪な事言う…!私、誰かを好きになるってまだよく分からないけど…修兵の事は凄く大事に思ってる。だから嫌いにならないで…。」
ゆうりは檜佐木の手を取りぎゅっと握った。不安げに瞳が揺れる姿が心許なくて、掻き抱きたい衝動に駆られるも檜佐木の腕は彼女の背へ回らない。そんな己を情けなく思う。
「嫌いになれるわけねぇだろ馬鹿。俺も変に嫉妬して悪かった。」
「…いいの。仲直りしよう。」
そう言って気の抜けた笑みを見せるゆうり。全く、本当に嫉妬を理解してるのかなんなのか…。
なんとなく彼女の笑顔に毒気を抜かれてしまった。やはりこの笑顔が俺は好きらしい。檜佐木は一度肩を竦めると、抱き締める代わりにせめてと、ぎこちない動きでゆうりの指に己の指を絡め恋人のように繋ぎ直した。これだけで檜佐木の心臓は煩いくらいバクバクと音を立てたが、手を繋がれた彼女はケロッとした顔で彼を見る。
「修兵って照れ屋だよね。」
「うるせえ!」
普段と変わらない様子に戻った2人。少しだけ森の中で話した後手を繋いだまま寮へと戻るのだった。
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