第3章 真央霊術院編
ゆうりは躊躇った。2人で話そうとして拒絶されたら…そう考えると少し怖い。けれど、元を辿れば自分に原因が有るのも分かっていた。
「…そうだね。行ってくる!」
「気を付けてね!」
立ち上がったゆうりは身なりを整え寮を後にする。蟹沢は手を振り見送った。男子寮は女子寮の隣に有り建物は同じ構造をしていたのでどこに何が有るかはとてもわかり易く、檜佐木が居るであろう部屋に着くのは簡単だった。
「緊張するな…。」
深く深呼吸をしてから、部屋の扉をノックした。程なくして部屋から玄関へ近づいてくる足音が聞こえて来る。ガチャリとノブが回され、扉が開くと現れたのは檜佐木とは違う、大柄な男だった。彼は思わぬ訪問者に目を見開きはくはくと唇を開閉させる。
「うおっ、染谷さん!?」
「あ…えっと、修兵居ますか?」
「俺同じ特進クラスの青鹿って言うんだ。よ、よろしくな…!」
「染谷ゆうりです、よろしくお願いしますね青鹿さん。」
「今檜佐木呼んでくるからちょっと待っててくれ。」
青鹿は一度引っ込んだ。扉が閉まり、そわそわと視線を彷徨わせていると再びゆっくり開く。顔を覗かせたのは今度こそ檜佐木だった。後ろから青鹿も様子を伺っているのが見える。
「…お前教師の話聞いてなかったのか?男子は女子寮、女子は男子寮に入るの禁止だぞ。」
「えぇ!?全然聞いてなかった…。」
「特に注目されてるような奴がこんな場所フラフラするなよ。何されてもルール破ってんだから文句言えなくなるぞ。」
「う……ご、ごめんなさい…。どうしても修兵と2人で話したくて…。」
ゆうりはガックリと肩を落とす。先程までの苛立ちを引きずっていた檜佐木は彼女の姿を見て、少し口調がキツくなってしまったことを自覚した。そしてバツが悪そうに一度自分の頭を掻く。
「あー…何しに来たんだ?」
「ちょっと、2人になりたい。」
「…分かった、行くぞ。」
檜佐木はチラリと後ろを見る。コソコソと隠れていた青鹿がグッと親指を立てた。
部屋を出た2人はゆく宛も決まらず、街とは反対側へ足を進めた。その間会話等無くただただ沈黙が続く。そうしている間に、いつの間にか森の中へと入っていた。その中でゆうりは徐に足を止める。