第13章 破面編(前編)
普段飄々とした様子の彼がまるで拗ねた子供の様にむくれる。普段とのギャップに心臓が跳ねた気がした。平子は椅子から立ち上がり彼女の前に立つ。キョトンとした丸い瞳が覗き込むと、彼女の両肩に手を置いて寝具へ身体を倒す。
見下ろした彼女の表情は、たいして驚きもしていなかった。こうなるのを予想していたのかなんなのか。毅然とした態度で平子を見上げる。
「…優しくしてね。」
「……そういう台詞、簡単に吐くもんちゃうぞ。」
煽るだけやねん。ちゅーか、態と言っとるやろ。まぁええけど、期待通り張り切ったるだけやから。
平子は片手の掌でゆうりの白い頬を撫でる。柔らかくて、まるでふわふわなマシュマロのようだ。吸い寄せられるように反対側の頬に唇を寄せ甘噛むと彼女は小さく身じろぐ。
「んっ…ちょっと、変な所に歯型とか付けるの辞めてよね。」
「見えん所やったらええの?」
「そういう意味でもないわよ…。」
そんなつもりだろうが違かろうが、オレはそう受けとったからな。後でたっぷり付けたろ、変な虫が寄らんように。
頬にリップ音を立て吸い付き、唇を離すと平子はそのままゆうりの唇に自分のを押し付けた。
「しん、じ…。」
ゆうり自身砂糖の塊なんか、って位唇も、声も甘ったるくて頭の中がドロドロに溶けてしまいそうな気持ちになる。
噛み付くように角度を変えて口づけ直し、赤く色付いた唇を舌で割る。無理矢理こじ開け、彼女の口内に舌をねじ込み上顎をなぞり舌を絡ませれば、時折くぐもった声が漏れた。
「ッ…は、ぁ…。」
「ふ…。」
擦り合う舌が熱い。唇を押し付け合いながらその熱に浮かされるように、ゆうりの服の裾に掌を忍ばせる。室内にいたとはいえ、季節のせいもあってか指先が少し冷たい。
直接肌に触れると、彼女の肌は暖かく柔らかかった。
そろりと脇腹を撫で、焦らすようにゆっくりの掌を上へ上へと這わせて行く。息も苦しくなってきた所で唇を離せば、互いの唾液が混ざり合い舌の間を銀色の糸が紡ぎプツリと切れた。
荒くなった呼吸、薄っすらと上気する頬に濡れた唇。平子は思わず喉を鳴らした。今まで見たことの無い位、蕩けた表情はどうしようもなく劣情を煽る。
「ンンッ…ふぁ…!」
「声抑えんなや、誰も聞いとらん。」