第13章 破面編(前編)
「頼むわ、オレもこないな事にあんま時間使いとォ無いねん。藍染が動き出すまでに、アイツには戦い方まで覚えて貰わなあかんからな。」
「……藍染で思い出したけれど、私も真子に言いたいことがあるんだよね。」
「ん?何や?」
彼女はゆっくりその場から立ち上がる。ポケットにしまっていた義魂丸ケースを取り出し、口元でアヒルの頭部分を押し込めば小さい粒がぽんと飛び出る。それを飲み込み、義骸を脱ぐと白くはためく羽織に平子は目を丸めた。見覚えのある、翠色だ。
「……オマエソレ…。」
「今、五番隊の隊長代理として働いてるの。昔の貴方と同じね。」
懐かしいその色に、様々な想いが脳内を駆け巡る。隊長として尸魂界で過ごした日々、彼女と出会った日、そして…裏切りに遭った日。本当に色々あった。否、あり過ぎた。そんな想いを押し殺し、彼は片手を伸ばして彼女の頭をそっと撫でる。
「…あーんな小さかったのに会わん内にソレが似合う位でかなったんやなぁ。」
「ふふ、ありがとう。実はちょっと自慢したかっただけなの。真子と同じ所に立てるようになったよ、って。」
「元々素質大アリやったやんけ。隊長になるん嫌がっとっただけで。」
「そりゃあ欠けなければそれが1番だもの。」
そう言って彼女は義骸を着直す。そう、本当に大きくなった。それに最後に会った時よりまた顔付きも変わったように思える。余裕が出来たというか、大人びたというか…色気が増したというか。思えば彼女と過ごしている時間は誰と比べても、おそらく自分が1番短いだろう。そう思うとふつふつと苛立ちにも似た嫉妬心が沸き上がる。
「…喜助とはどうなってん。結構な期間こっちにおったやろ。」
「え?…どうともなってないよ。出会った頃と変わらずに、ただ一緒に過ごしただけ。夜一さんには稽古をつけて貰ったけれどね。」
「へぇ…尸魂界では?オレが知らん間に男出来たりしてへんよなァ?」
「してないよ、戦争か終わるまでは誰かとどうにかなろうなんて思ってないわ。どうしたの、珍しいね。真子が焦ってるの。」
「焦りもするわ、惚れた女は色んな男に好かれとるんやで?出会ったのはオレの方がずっと早いのに、後から出会った奴らの方がオレの知らん姿を知っとるとか狡いやろ、そんなん。」
「…貴方がそんな可愛い事言うの初めて聞いた。」