第12章 五番隊隊長就任編
「はは、知ってる。」
両手で煙を払う彼女を見て愉快気に笑う。からかったつもりがやり返されてしまった悔しさに少しだけむくれながら、ゆうりは阿近の肩に凭れた。
「…私は寂しいよ。」
「別に今生の別れでも無いだろ。」
「分からないでしょ、私だって戦いに負ければ死ぬんだから。」
「……まさか、ビビってんのか?ゆうりが?」
「ちょっと、女性に向かって失礼じゃない?私だって怖いと思う事くらい有るよ。藍染は強いもの。」
彼女の視線が床へ落ちる。胡蝶蘭は、自らが死神達が敗北した世界から来たと言った。負ける可能性が存在しているのだ。そして自分が、同じ道を辿らないとは限らない。表立っては気丈に振る舞えても、恐怖心はどうしても残る。自分の死だけではなく、仲間が死ぬ事だって、耐えられない。これから始まる戦争がどれ程のものなのか想像が出来ないからこそ、漠然とした不安があった。
「……俺はお前に死なれたら困る。」
「何で?」
「好きだから。」
「……ん?」
「好きだから、死んで欲しくねェ。」
パッ、と顔を上げるといやに真剣な眼差しを向ける阿近と視軸が絡み、ゆうりの瞳が動揺で揺れた。
彼は指に挟んでいた煙草の先を灰皿へ押し付けると、その手を彼女の肩に乗せ、ゆっくりと押し倒す。
「あ、阿近…?」
「また冗談だ、って言うと思ったか?」
「思った。」
「残念だな、本気だよ。」
「……どうして今言うの?」
「万が一本当に死んじまったら伝えてなかった事、後悔するだろ。俺が。」
「何それ、すっごい自分本位…!!」
あまりにも自分勝手な物言いに驚いたが、それが寧ろ阿近らしいとも思った。少し可笑しく思えて来て、口元に手を添え笑うと彼は呆れた顔で見下ろす。
「そもそもお前、気付いてたよな。今までも冗談で言ってないって事。」
「気付いてたよ。でも阿近がはぐらかして来るなら深く聞かない方が良いと思って。」
「悪い女。とにかく、分かっただろ。」
「何が?」
「お前に生きて欲しいって願ってる奴が沢山居る事。」
それだけ言われてハッとする。自分も、周りに生きて欲しいと願っている。それはルキアを奪還した時も、この先も、いつだって同じ想いだ。けれど、周りから自分もそう思われているとはあまり考えていなかった。