第12章 五番隊隊長就任編
卍解の力を使えば、桃の中の藍染の記憶を消し去る事は出来るかもしれない。だがそれは彼女にとって本当にいい事なのだろうか。…答えは否だと思う。善人の皮を被っていたとはいえ、桃にとって彼と歩んだ日々は、裏切られ苦しんでいる今よりも、大切な思い出なのかもしれない。それに、彼から得た学びもある筈だ。それを全て奪う事は出来なかった。
ままならない想いを胸に執務に戻る。必要な仕事を終わらせた後、ゆうりは自室には戻らず五番隊を後にした。星空が煌めく中、向かったのは十二番隊の隊舎だ。現世の監視も担うこの部署は、今も明かりが途切れず室内からは人の声も聞こえて来た。
「おう、なんだゆうり。また阿近に用事か?」
「お疲れ様です、鵯州さん。用事っていうよりただ会いに来ただけですよ。」
「珍しいな。阿近ならもう仕事終わって部屋にいる筈だぜ。」
「ありがとう。」
視線を大きなモニターへ戻した彼を見送って、言われた通り阿近の部屋へ向かう。襖越しに戸を叩くと、返事が返って来た。
「阿近、入っていい?」
「ゆうりか?入れよ。」
確認を取って襖を開けば阿近は死覇装のみ着込み、煙草を燻らせながら顔を彼女に向けた。自室だからという事もあってか、着崩された着物から覗く肌が色っぽい。
ゆうりは部屋に入ると襖を閉めて彼の隣へ座る。
「なんだ、また何か頼み事か?」
「違うわよ、阿近が言ったんでしょう?たまには遊びに来いって。もうすぐまた現世に行く事になるから、ちょっと顔を見にね。」
用もなく、嫌な事があった訳でも無く、ただ自分に会いに来たらしい。今まで彼女が理由無しでこの隊舎まで来た事等無かったのだから、その珍しさに瞠目しつつも嬉しくも有る。
緩みそうになる頬を隠す様に煙草を咥え口元を手のひらで隠しながら言葉を続けた。
「…思ったより破面の出現が早かったからな。また浦原さんの所に行くのか?」
「うん、私があっちで暮らすなら喜助のお店が1番楽だから。皆とも連絡取りやすいし。」
「男共がまた寂しがるだろうなァ。」
「あら、それに阿近は含まれないのかしら?」
どことなく勝ち誇ったような、見透かしているかのような顔で見上げて来るゆうりに目を丸める。阿近は誤魔化すように、その顔へ煙を吹き掛けた。
「っ!!げほっ…もう、煙草嫌いだってば!」