第12章 五番隊隊長就任編
「その卍解は、お前だけの力だ。どう使うか、何に使うかも全てお前だけが決められる。俺が何を言わなくても、もしも俺が望まなかったとしても、自分のエゴを貫いてでも護りたいと思うなら躊躇うな。」
鼻先が触れそうな距離のまま向けられる真剣な眼差しと言葉は、ゆうりの心を動かした。
…やっぱり冬獅郎は、自分よりもずっと隊長に相応しい男だ。冷静で、己の中に確りとしたブレない芯が1本通ってる。それがとてもかっこいいと思ったし、羨ましいとも思う。
「…冬獅郎は本当に優しくてかっこいいね。ありがとう、少し心の整理が出来た気がするよ。流石隊長。」
「お前も今は同じ立場だろうが。」
日番谷は呆れたように溜息を吐いて手を離し、ゆうりは乱れた掛衿を直しながら昨日の様子を思い出す。
重く肌を刺す高い霊圧。しかも彼らは始解が出来ると言う。始解前の霊圧があそこまで重いのならば、始解した後は想像がつかない。きっとこの戦いは、辛く険しい道になるのだろう。…昔、蘭とした自己犠牲を辞めるという約束も破る事になってしまうかもしれない。
そんな予感に瞼を伏せた。
「そろそろ戻るぞ。4日後、お前も現世に行くんだろ。三席に引き継がねェと、戻った時に地獄を見るぞ。」
「あれ、なんで知ってるの?というかお前も、ってまさか…」
「聞いてないのか?俺だけじゃない、阿散井、綾瀬川、斑目、松本…朽木ルキアも黒崎と合流する予定だ。」
「多くない?というか、十番隊は2人とも行くのね。」
「松本1人で行かせられると思うか?」
「……あー。」
なるほど、という言葉が喉まで出掛かったところで飲み込んだ。大方、冬獅郎はお目付け役も兼ねているのだろう。メンバー的に。意外と恋次は真面目だから大丈夫かとは思うけど。
2人は帰路につきながらも、話を続ける。
「やっぱり一護は狙われてるのかな。昨日も元気無かったから心配なんだよね…。」
「狙われてるのはお前も同じなんだろ?」
「うん、まぁ…現世は尸魂界程守りは万全じゃないし、向こうに行ったら接触しようとして来るかもしれない。」
「だろうな。それでも行くのか。」
「何かあった時私なら直ぐに治せるでしょう?それに、喜助と総隊長の鳩でもあるから。」
「便利に使われてるな…。」
「不満は無いわ、私は全ての魂魄の為に働く死神だもの。」