第12章 五番隊隊長就任編
現世から戻り、破面についての報告を山本に済ませた翌日。ゆうりは日番谷と共に彼がまだ学生だった頃、何度か顔を合わせていた森へと訪れていた。彼と2人きりで会う時は、いつもここだ。誰の邪魔も入る事が無いからか、何故だか凄く安心するような気がする。
日番谷と顔を合わせたのは、彼女が小さくなる出来事があったあの日以来だった。鮮明に残る記憶に、未だ羞恥を覚えたゆうりは気まずそうに視線をさ迷わせる。
「えーっと…冬獅郎。わざわざ何の用事?こんな所まで来て。」
「なんだ、もうシロちゃん、って呼ぶのは辞めたのか?」
「な…ッ!もう!その話するなら帰るよ!」
「冗談だよ。」
普段からかってくる彼女に仕返しだとばかりに、日番谷は意地の悪い笑みを浮かべた。顔を赤く染め、ややむくれるゆうりの姿を見て、矢張り今の彼女が好きなのだと実感する。
しかし、わざわざ呼び出したのはただ揶揄う為では無い。ずっと気になっていたのだ。幼い頃のゆうりが口にした名の人物が。
「……蘭雪、って名前に覚えはあるか。」
「辞めて。」
名前を聞いた瞬間、ズキリと脳が締め付けられるような感覚が襲い、ゆうり自身が驚く程、酷くハッキリとした拒絶の言葉が出た。先程までは愛らしく頬を赤らめていたはずなのに、一転して表情が無い。それどころか、徐々に青ざめていくようにも見える。
「やっぱり覚えがあるんだな。お前の斬魄刀は…」
「辞めて!!…その名前を聞くと頭が痛くなるの。嫌なの、聞かれるのが。」
何故こんなにも頭が痛むのか、心臓が逸るのか自分でも分からなかった。幼い頃の無邪気な自分が口にした名前だと言うのに、記憶が無い…というよりも、思い出せない。何より、心が知る事を拒絶している。そんな気がした。
「…そう、か。悪い。少し気になったんだ。」
「……良いの。ごめんね、大きい声出して。」
2人の間に奇妙な沈黙が訪れる。鳥の鳴き声と木々がざわめく音だけが辺りに響く。その長い沈黙を破ったのは、ゆうりの方からだ。
「私も冬獅郎に話したいことが…ううん、相談したい事があったんだ。ずっとバタバタしてて言えなかったんだけど。」
「何だ?」
「私の卍解について。」