第12章 五番隊隊長就任編
「な…なん…だと…!?クソがあァァァっ!!!」
「…儂も井上の介抱に回る。良いな。」
「はいな。」
「待てコラァ!!!」
投げ飛ばされた彼は左腕の拳を地に叩き付け、力だけで身体を起こす。すれ違いざまに浦原と言葉を交わし、井上の元へ歩み寄る四楓院に再びヤミーの腕が伸びた。しかし、彼の手は相も変わらず空をきる。彼女は瞬歩で伸ばされたヤミーの手に片足を乗せると、身体を捻り逆側の脚で思い切り頬を蹴り飛ばす。
「ぶ…っ!?」
ヤミーの身体はぐらりと傾く。それでも彼女の追撃は止まらない。ひらりと飛んだかと思うと、今度は容赦ない拳を顔面に叩き付けた。うつ伏せに倒れたヤミーに背を向け、四楓院はゆうりと井上の元に歩み寄り身を屈める。初めて本気で戦う姿を見て呆気に取られていたゆうりは時が動き出したかのようにハッとして井上を見下ろした。彼女は左半身が血に塗れており、見たところ腕の骨も折れている。あまりに痛々しい姿に、急いで手元に霊力を集中させた。四楓院が彼女の体を軽く持ち上げると、まだ意識はあるようだ。
「夜……いちさん…?ゆうりちゃ……く…くろ…さ…き…くん……は…」
「大丈夫よ織姫。一護も必ず治すから。今は休んで。」
「……うん…。」
井上は緊張の糸が途切れたかのように、意識を手放した。ゆうりは手を拡げ白く淡い光を発生させる。光が井上の頭から腹辺りまでを包み込むと、その空間だけが時を遡るかの如く肉を、骨を、布を少しずつ元の姿へ戻していく。その姿を、ヤミーの近くに立っていたもう1人の破面…ウルキオラは見逃さなかった。己の瞳に、その光景を文字通り焼き付ける。
その時、倒れていたヤミーの指がぴくりと動いた。
「ばはァっ!!!」
「…往生際の、悪いやつじゃの。」
「…殺す…!ぶっ…殺す!!!」
血塗れの身体で、勢い良く立ち上がった。どうやらまだやる気満々らしい彼に四楓院は一瞥くれる。
懲りず拳を振り上げるかと身構えたが、そうでは無かった。ヤミーは大きく口を開ける。金属を擦る様な甲高い音を立てて霊力が彼の口元へ集まり始めた。
虚閃だ。
それに気付くよりも先に、強い光が一帯に差す。その瞬間、ゆうりの目にふわりと靡く黒い羽織が見えた。
放たれた虚閃により土煙が上がり視界を奪う。確実に仕留めたと確信したヤミーは口角を吊り上げた。