第12章 五番隊隊長就任編
両手で受け取ったゆうりは、迷うこと無くそれを一気に飲み干した。阿近はその様子を黙って見つめる。これでやっと、元に戻る筈。
「ぷはっ!美味しい……あれ…?」
コップを口から離した途端、ふらりと視界が揺らぐ。立っていられなくなり、ぺたりとその場に座り込む。目に見えて起こる変化を目の当たりにして阿近は咄嗟に彼女の着物帯を解き、落ちていた隊長羽織を肩に掛けた。
そして直ぐ、子供になった時と同じようにポンッと小さな爆発音と共に白い煙が彼女を包む。ひっそりと浮かぶ人影の大きさに、彼はホッと息を着いた。
「…ちゃんと元に戻ったな。」
「………阿近?」
彼女はキョトンとした顔で見上げてくる。サイズの合わない死覇装は床に落ち、肩に掛る隊長羽織1枚だけが肌を隠した。
それに気付いたゆうりが慌てて両手で羽織を掴み、はだけた前を閉じる。
「な…何……何これ…!」
「何も覚えてねぇの?」
阿近と視軸が絡み合う。すると、一気に頭の中を何かがフラッシュバックする様にして、幼くなった時の出来事が再生される。途端に自分の顔へ熱が集中していく。
わ、私一体何を…?冬獅郎の膝に座ってたし、甘えてた…?それに、白哉になんて言った…?
わなわなと唇が震える。記憶が無かったとはいえ、顔馴染みのある面々になんて醜態を晒してしまったのだろう。
「もっ、もう恥ずかしくて外に出られない…!!」
「…覚えてんのな。良いじゃねぇか、素直で可愛かったし。あこんは鬼さんなのー?って。」
「やだやだ辞めて!聞きたくない!」
ゆうりは蹲り、両耳を塞ぎ首を横に振った。余程子供の姿を見られた事が恥ずかしかったのか、真っ赤になって涙を浮べる彼女に加虐心が煽られゾクリと背筋が震える。阿近は片膝を床に着き、ゆうりへ身を寄せ片手の手首を掴んで耳から外す。
「なァ、お前との子供が出来たらあんな感じの子供が出来ると思うか?」
「し、知らないよ…だいたい阿近があんな変な薬飲ませるから!私は疲労回復の薬を頼んだのに!」
「あー……それは、無理にでもお前を休ませようと思ってよ。餓鬼になれば筆もろくに握れねぇだろ。けど、まさか精神まで退行するとは思って無かったんだ。悪ィ。」
「…そんな心配される程、私酷い顔してた…?」
「してたよ。」
「う…。」