第12章 五番隊隊長就任編
「えへへ、お兄ちゃんと一緒に居るみたいで嬉しいから!」
「そのお兄ちゃんは一緒に居てくれないのか?」
「うーん……お兄ちゃん、お家帰ってこなくなっちゃったから…。」
帰ってこない?一体どういう意味だ?家出…にしてはまだ若過ぎる。それとも割と歳が離れていたのだろうか。
彼女の兄という存在に興味を持った日番谷は質問を続ける。
「お兄ちゃんてのは、どんなヤツなんだ?」
「えっとね、すっごく優しくて、かっこよくて、背もおっきくて、いつも私を守ってくれたの!」
「名前は?」
「蘭!蘭雪くん!」
「らん、せつ…?」
確か、コイツの斬魄刀の名前は胡蝶蘭だった筈だ。なにか繋がりがあるのか?どうにも引っ掛かる。彼女が兄だと主張する存在が。険しい表情で顎に手を添え考え込む。すると漸く準備の終えた松本が、お盆にお茶と羊羹を乗せ戻って来た。
「あらあら、懐かれてるじゃないですか隊長。というか、何難しい顔してるんですか?」
「あ…いや…なんでもねぇ。」
「ふーん…?」
コイツが元の姿に戻った時、直接聞けばいい。どの道今聞いた所で情報は得られないだろう、そう言い聞かせた。松本は手に持っていたお盆を机に置き日番谷達と反対側のソファへ腰掛ける。
ゆうりは目を輝かせ、羊羹の乗った皿を求めて両手を伸ばす。うっかりそのままソファから落ちていきそうで、日番谷は慌てて彼女の腹に片腕を回し抱える。
「危ねぇ!俺が取ってやるから大人しくしてろ。」
「はぁい…。」
彼は隻手を伸ばし羊羹が一つ乗った皿を取ってゆうりへ渡した。彼女はそれを膝の上へ置き、右手でフォークを握る。
「いただきます!」
「零すなよ。」
「うん!」
端っこから小さく切った羊羹を口に運ぶ。濃い餡子の甘さに、手を頬に添え幸せそうに噛み締める彼女に日番谷の表情が無意識に緩む。その瞬間を松本が見逃す訳もなく、彼女はニヤニヤと笑いながら頬杖をつき2人を見詰めた。
「隊長もそんな顔するんですねぇ?」
「ッ…別に、俺だって笑う時くらい有るだろ。」
「照れなくても良いじゃないですか。」
「照れてねぇ!」
そんなやり取りをしながら松本、日番谷も羊羹に手を付け3人で話している内に時間は過ぎていく。全員が食べ終わった頃、ゆうりは日番谷の膝から降り、両手を腰に宛ててニンマリと笑った。