第12章 五番隊隊長就任編
「………。」
「……………。」
十番隊では奇妙な沈黙が続いていた。椅子の縁に手を置き、まん丸の瞳でジッと見上げてくるゆうりに日番谷は言葉を飲み込む。彼女であることに間違いは無いが、もとより年下の扱い方等知らない。少し離れた所から見ている松本はその光景を面白がってか口を挟まなかった。
「…シロくんは、私と同じ髪とおめめだねっ!」
「そうかもな…。」
「おにいちゃんにそっくり。」
「お兄ちゃん…?」
「ゆうり、兄なんて居たの?」
「うん、居るよ!だいすきなお兄ちゃん!」
松本と日番谷は顔を見合わせた。そんな話聞いた事も無かったが。勿論目の前の幼子が嘘をついているようにも見えない。室内に流れる妙な空気を変えようと、松本は柏手を打ちゆうりへ顔を近付けた。
「そうだ、昨日買った羊羹が有るのよ。あんたも食べて行きなさい!隊長、あたし準備するんでゆうりとソファで待ってて下さい。」
「いや、俺も一緒に…」
「何言ってんですか、ゆうりを1人で置いとく訳にいかないでしょう。直ぐに戻りますから!」
そう言って彼女は足早に執務室を出て行ってしまった。完全に2人きりとなってしまい助け舟も出せなくなった日番谷はヒクリと頬を引き攣らせる。数秒間を置き小さな溜息を吐いて、椅子から立ち上がった。立ってみてもやはり彼女の方が断然背が低い。
「シロくんおっきいね!」
「今その姿で言われても複雑だな…。ほら、こっちだ。」
真っ白な羽織りを翻し執務室に置かれたソファに座る。短い足で懸命に着いて来るゆうりの姿は雛鳥の様で愛らしく思った。
表情に出さぬよう口元を手のひらで隠し腰掛ける。深々と座ると、あろう事か彼女はぴょんと彼の膝の間に座った。
「な…隣で良いだろ隣で!」
「や!シロくんと一緒が良い!」
フルフルと全力で首を振り、更に両手で袴をキュッと握られる。振り返った顔が少しばかり不服そうで頬が膨らんでいる。
…クソ、可愛い。普段余裕たっぷりで人を揶揄って来るようなヤツなのに、幼いというだけでこんなに素直に甘えて来るんだな。……アイツとの子供が出来たら、こんな感じなのだろうか。
彼女は袴を掴んだまま正面を向き直り床につかない足をぶらぶらと揺らし上機嫌気味に日番谷の胸に背中を預けた。
「…随分機嫌が良いな。」