第12章 五番隊隊長就任編
「えと…らん…乱ちゃん!シロくん!あこんのお友達?」
「やだ、ゆうりに乱ちゃんなんて呼び方されるなんて新鮮ねぇ。あたしもシロくんも、お友達!あたしは阿近とお話するから、シロくんに遊んで貰ってらっしゃい。」
「は!?俺は遊ぶなんて一言も…」
「はぁい!」
日番谷の静止の声も聞かず少女は阿近の腕からピョンと飛び降りた。そこは流石死神と言うべきか高い位置からの着地を難なくこなす。執務机に駆け寄って行く彼女を見遣り松本は腕を組んで溜息を漏らした。
「…で、これはどういう事かしら?」
「ゆうりに疲労回復の薬を頼まれてたんですけど、そんなモン飲ませたらまた無理するだろうと思って身体退行薬を飲ませたんですよ。したら、何故か精神まで子供に戻ったみたいでこの有様です。」
「あんたも無茶なことするわねぇ…。」
「で、ものは相談なんですけど俺は元に戻す薬作らなきゃならねぇし、ちょっと預かってて欲しいんですよね。」
「良いわよ、なんか面白そうだし!」
「良くねぇ!仕事が有るだろうが!」
「えー!?何言ってんですか隊長!ゆうりがこのままで良いんですか!?」
「それは…!」
傍まで寄ってきたゆうりに視線を移すと彼女はニコリと笑う。その表情に思わず言葉が詰まった。可愛い。何より、このままであれば自然と自分の方が歳上になる筈なので今までずっと見上げる側だった己が彼女を見下ろす側になれるのだ。
しかしゆうりが、以前と同じように成長していくとは限らない。自分が好意を抱いたのは、元の姿の彼女そのものだ。それに背を抜かすという約束もこれでは意味が違ってしまう。
ただ静かに脳内で問答を繰り返し、たっぷりの間を開けてから細く長い息を吐き出した日番谷は彼女へ手を伸ばし、柔らかな髪を優しく撫でた。
「…今日だけだ。夕方までには元に戻す薬を持ってこい。」
「勿論。じゃあ後で迎えに来るんで、後はお願いします。」
「あぁ。」
阿近は日番谷に小さく頭を下げ隊舎を後にする。この時、預かった無邪気な少女がどうなるか…そして、瀞霊廷内がどんな喧騒の渦に巻き込まれていくのか等誰も知る由もなかった。