第12章 五番隊隊長就任編
「お待たせ。」
「おかえり。…何?その紙袋。」
阿近の部屋で待つこと数分。戻ってきた彼の手には一本の薬瓶とやや小さめの紙袋が握られていた。薬はおそらく疲労回復の類だろう。だが紙袋は一体…?
気になり中身を覗こうと、袋に手を伸ばせばサッと背中に隠された。
「何で隠すの!?」
「コレは俺の私物だから、お前には関係ねェの。」
「あうっ。」
薬瓶を持つ手の示指で額を小突かれ頭が軽く後ろへ押される。片手で額を摩っていると持っていた小瓶が手渡された。薄く水色がかったガラス瓶の中で無色透明の液体が揺れる。蓋を開け、鼻先を寄せて匂いを嗅ぐも特に薬らしい強い香りもしない。ただの水ではないのか、そんな疑念を抱きチラリと阿近へ視線をやった。
「…本当に効くの?」
「当たり前だろ。疑ってんのか?」
「だって阿近、指輪作ってくれた時と同じ顔してる。」
「どんな顔だよ。飲まねぇなら置いてけ。」
「あ…の、飲むよ!飲む!」
伸びて来た腕から薬を遠ざけようと背を向ける。再度瓶へ視線を落としゴクリと生唾を飲み込む。元々薬は余り好きでは無いため躊躇してしまう。
せめてどうにか味を誤魔化す為に鼻を摘み、瓶へ口付け一気に空を仰ぐ。重力に任せ流れ込んで来る液体を抵抗せず喉を通した。味が無い。鼻を摘んでいるから感じない、というよりまるで水さながら無味無臭なのだ。
飲み干した瓶を口から離し、正面に向き直ったゆうりは濡れた唇を手の甲で拭う。
「……?」
「どうした?」
「…疲れがとれた感じ、全然しない……。」
「誰も疲れが取れる薬を作ったなんて言って無いけど。」
「え!?じゃあこの薬は…!」
ドクン、と心臓が強く脈打った。意識せずとも大きく聞こえる拍動に胸を抑える。酸素が上手く取り込めず呼吸が浅く短いものに変わっていく中、突如ポンッと彼女の身体が白い煙に包まれた。
阿近は顔を袖で庇い煙を吸わぬ様に払う。視界が晴れた頃、目の前にゆうりの姿は無い。それこそが薬の成功を表していた。
「…おーおー、出会った時より小さくなってんな。」
「………。」
彼は笑いながら膝を折り、しゃがみ込む。目線の先ではゆうりが大きな瞳をぱちくりと開閉させている。何が起こったのか理解が追い付かないのか。