第12章 五番隊隊長就任編
こうして頼られるのは悪い気はしなかった。彼女にとって必要な物を作れるのは自分だけ。そんな優越感が有る。勿論そんなものが無くても会いに来てくれるのが一番望ましいが、誰にでも付かず離れずのゆうりの唯一になれるのは周りの男達から1歩抜け出た気分だ。
「…ったく、相変わらず無防備な寝顔だな。」
そんなだから、気付きもしねぇ間に手ェ出されんだよ。
既に100年も前の記憶を辿る。初めて無理矢理ここに連れて来られた日。彼女の膝で眠っている最中、突如現れた男の事を思い出す。まだ眠りの浅かった阿近は2人の会話はおろか、男がゆうりに何をしたのかも知っていた。その上で狸寝入りをしていたのだが。勿論市丸のした事も、彼の独り言も彼女に伝えていないしこれからも言うつもりは無い。
「昔……昔、か。」
…そうだ、いい事を思い付いた。ゆうりを休ませる為の取っておきの薬。飲ませたら多分怒るだろうけど、これ位しないと改善もしねぇだろうし。つーか確か、以前作ってどっかに保管してたな。起きたら飲ませてみるか…。
自分の膝の上ですやすや眠りこける彼女のあどけない寝顔を見ながら阿近はひっそりと口角を歪めた。
それから数時間が過ぎ、漸くゆうりは自然と目を覚ます。片手を床に着いて上体を持ち上げ眠気まなこを擦った。少し睡眠をとった事で会った直後よりは少しだけ顔色がマシになったように見える。
「おはよう。」
「おはよ…私どの位寝てた…?」
「そんなに経ってねぇよ、まだ昼前だし。」
「良かった。」
そのまま両腕を天へ持ち上げ身体を伸ばす。まだ万全とはいえないが仕事に戻らないと。そんな思いで彼女は立ち上がる。
「ありがとね阿近。薬は頼めそうかしら?」
「あぁ、それだけど良いのが有るから飲んでいけよ。用意するから俺の部屋で待ってろ。」
「え!?本当?…なんか、凄く楽しそうな顔してない?」
「んな事ねぇよ。部屋分かるだろ。」
「うん。」
「じゃあ先に行っててくれ。」
そう言い残し阿近は上機嫌気味にどこかへ行ってしまった。残されたゆうりは彼の背中を訝しげに見詰める。指輪を作った時も、どこか怪しげな笑みを浮かべていたが今回もそれに近い何かを感じる。本当に任せてしまって大丈夫なのだろうか…。
そんな一抹の不安を抱えながら、彼女は彼の部屋へ足を運んだ。