第12章 五番隊隊長就任編
「え…?いや、強引にキスして来たのに緊張してるの伝わって来て可愛いなぁって思って。」
「う…うるせぇな!初めてなんだから仕方ねェだろ!」
「…初めてを私が貰っちゃって良かったの?」
「お前、俺が何年ゆうりに片思いし続けてると思ってんだ。」
「……そんな事言われると照れちゃう。」
「じゃあ少し黙ってろよ。」
再び唇が重なる。彼女の柔らかい唇を堪能する様に下唇を食み、やんわりと吸い付く。手首を掴んでいた手はそのまま掌を擦り合わせ指を搦めて繋いだ。
「んぅ…ぁ…。」
「ふ……っ。」
短い呼気が触れ合う。小さく唇を開くと遠慮がちに檜佐木の舌が侵入して来る。拙い動きで舌腹同士が擦り寄合い、唾液の混ざる水音が小さく響く。先程食べた甘いチョコレートの味と仄かに鼻腔を擽る酒の匂いに酔いそうだ。
軈て舌が引き抜かれると彼はそのまま額を彼女の肩へ押し付け俯いた。
「はっ……修兵……?」
「…これ以上触ってたら、マジで歯止めが効かなくなる。明日早朝から隊首会だろ。忘れてねぇよ。」
「ちゃんと覚えてたんだ。」
「当たり前だろ。遅刻なんてしたら、総隊長にドヤされる所じゃ済まねぇからな…周りの隊長からも殺されそうだ。」
それも、ゆうりと共に遅刻なんてした日にはその時点で己の命は無惨に散るだろう。ここまでした分名残惜しい気持ちも強いが、何より仕事を疎かにする事を良しとしない檜佐木は渋々身体を離した。
「修兵は理性的だよね、意外と。」
「どういう意味だよコラ、喧嘩売ってんのか?」
「だって良く乱菊さんの胸見てるでしょ。ムラっけ強い割に耐えるから偉いなぁって。」
「……それ、乱菊さんに絶対言うなよ。」
「言わないわよ。そんな意地悪しないわ。」
どうやら図星だったらしい。バツが悪そうな声で小さく言葉を吐き捨て檜佐木にゆうりは静かに笑い彼の頭を撫でる。
「でもびっくりしたなぁ。修兵とキスする日が来るなんて。初々しくてドキドキしちゃった。」
「余裕そうなのがすげぇ腹立つな…次はそんな事言わせねぇよ。」
「別に下手でもいいのに。」
「男としてのプライドが有るんだよ!」
そう言って彼はお猪口に残った日本酒を一気に飲み干した。細く息を吐き出す事で気持ちを少しでも落ち着かせると檜佐木は伏し目がちに彼女を見遣る。