第12章 五番隊隊長就任編
これくらいしないと、どうせお前は意識のひとつもしないだろうが。
日番谷がそんな想いを胸に抱いているとはつゆ知らず、2人は森を後にする。
ついに、五番隊の前まで来た。この羽織に身を包んだ瞬間、私はもう曲がりなりにも隊長である。これからは五番隊の事を何より大切にする義務が有る。…その為にまず自分を受けいれて貰わなければ。緊張からゴクリと喉を鳴らしゆっくりと扉を開いた。壊れた塀や散乱した残骸を外に運び出していた隊士達は、白い羽織を着た彼女の登場に手を止める。
「五番隊の皆さんに大切な話があります。全員作業の手を止め、鍛錬場へ集まって下さい。」
ゆうりの声はしんと静まり返っていたその場に良く響いた。数秒の間を置いた隊士達は困惑するが、隊長羽織を着る彼女の指示に従い、点在する隊士達へそれぞれ声を掛け合い指定された場所へと集まり、整列する。おそらく全員が室内に収まった頃合に彼女は鍛錬場の扉を潜る。そして彼らの前に堂々と仁王立ちしてゆっくりと唇を開いた。
「本日より五番隊隊長代理を務めることになった、染谷ゆうりです。あくまで代理という形ですので雛森副隊長が復帰次第権限は彼女に譲渡されます。」
「染谷隊長だって…?」
「俺、教師から聞いたことあるぞ…昔、容姿端麗で強い生徒が居たって…。」
「私、学生の時引率してもらったわ…!」
ざわめく様子は現世で空座第一高等学校に転入した頃を思わせる。どこか懐かしい感覚だ。
「…硬っ苦しいのあまり得意じゃないの。それに隊長代理だからって適当な仕事をする気も無いわ。とにかくまずは皆の顔と名前をしっかり覚えたいから、沢山お話しながら皆の事を教えてね。」
「…よろしくお願いします!染谷隊長!」
「よろしくお願いします!」
「うん、よろしくね!」
二番隊や六番隊等の比較的厳格な隊長とは違い八番隊、そしてかつて五番隊の隊長であった藍染に近い様子で朗らかな笑顔と雰囲気を醸し出す彼女に隊士達は少なからず安堵を覚えた。隊長、副隊長が居なくなり突然現れた隊長代理が藍染とは全く正反対な性格だったら、心も身体も追い付かない。
思っていたより和やかな空気で迎えられたゆうりの指揮の下、隊士達は改めて崩れた隊舎の修復に励む。それから瀞霊廷内全域が元通りになるのは約1ヶ月後の事だった。
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