第12章 五番隊隊長就任編
「…分かってるなら俺を頼れよ馬鹿野郎。何で、俺が現場に着くまで待たなかったんだ。俺はお前を信じてずっと無罪を主張して来た。それなのにお前は…ゆうりは、俺よりも市丸を信じたのか…?」
彼の瞳が悲痛に揺れた。それがあまりに弱々しく見えてゆうりの表情も歪む。現世で自分が浦原に詰め寄った時も、自分はこんな顔をしていたのだろうか。そんな事を思う。
「ごめんね…信じてなかったわけじゃないの。痛みと、仲間を殺した動揺で頭が上手く回らなくて。今度はちゃんと私も皆を頼るから…そんな顔しないで冬獅郎。」
「…約束だからな。」
未だ表情に不機嫌の色を残す日番谷の頭を柔らかく撫でると片手で払われた。相変わらず子供扱いされる事に関しては人一倍敏感らしい。話を終えて互いの隊舎に戻ろうと踵を返し歩き始めた彼は何かを思い出したらしく直ぐに立ち止まる。不思議に思ったゆうりも彼より数歩先に行ったところで歩みを止めた。
「どうしたの?」
「言い忘れてた事がもう1つあった。」
「ま、まだ何か有りました…?」
他に隠していた事があっただろうか。いや無いはず、多分。神妙な顔で視線を逡巡させる彼女に日番谷は短く息を漏らして笑う。
「バーカ、何変な顔してんだよ。……おかえりゆうり。」
「…!…ふふ、ただいま冬獅郎!」
「うおっ、オイ!くっ付くんじゃねぇ!」
再び迎え入れられた事が嬉しくて、眦を緩め柔らかく笑った。つい自分より背の低い彼を正面から抱き締める。突然零まで縮まる距離と、松本程では無いが豊満なバストが顔に当たり眉を顰めた。女性特有とも言うべきか、彼女自身の優しい匂いに顔に熱が昇りゆうりの肩を押し返すことで離れる。
「照れ屋な所は変わらないね。」
「あのなぁ…俺がお前に好意がある事を分かっている上で引っ付いて来るってんなら、俺も容赦はしねぇぞ。」
「え?……わっ。」
肘より高い位置をガシリと掴まれ力任せに上体を引き下げられた。一瞬前のめりになったところでチュッ、とリップ音が耳元で響く。
頬に口付けられた。気付いたゆうりは俄に濡れた頬を手のひらで抑えキョトンとした表情で彼を見る。日番谷はパッと顔を逸らしてはズカズカと足速に行ってしまった。
「…冬獅郎も随分積極的になったねぇ。」
「うるせえ!」