第12章 五番隊隊長就任編
「三番隊、九番隊に関しては副隊長にしばらく隊長権限を与える事とする。すまぬが3名にはしっかり責務を果たして貰うぞ。ではこれにて解散!各自引き続き隊舎の修復に向かってくれい。」
山本の声で集められた隊長・副隊長はゾロゾロと隊舎を後にして行く。漸く過去の蟠りが解消された彼女はひっそりと息を吐いた。己も早急に五番隊へと向かい未だ不安を抱えているであろう隊士達と顔を合わせなければ。そう思って歩みを進めようとした矢先、左手の手首をがっしりと掴まれた。手元から顔を上げると日番谷が不機嫌の色濃く唇をへの字に結んでいる。
「…少しくらい、時間有るだろ。」
「う、うん。ちょっとね…ちょっと。」
「松本、先に戻っててくれ。」
「はぁーい。隊長、誰も見てないからって変なことしちゃダメですよ〜?」
「するか!」
口元に片手の掌を添えてニヤニヤと口角を吊り上げ茶化す松本に日番谷は声を荒らげた。昨日までピリピリしていた空気が、大きな戦争を終えた事でほんの少しだけ和らいでいるのを感じる。
彼と共に向かった先は人の居ない、かつて互いが初めて出会った森だった。ここまで被害は及んでおらず昔と一つも変わらない姿で葉が揺れる。そこでやっと日番谷の手が離れた。背を向けていた彼が静かに振り返り腕を組む。
「…志波隊長が居なくなった理由も知ってるだろ。」
「当時は知らなかったわ。多分、空座町に居るだろうとは思ってたけど白哉が行かせてくれなかったし憶測だったんだけど……何となく理由は分かってたし、実際考えてた通りだった。」
「まだ空座町に居るのか?」
「居るよ、ピンピンしてる。でも霊圧は完全にゼロで虚を見る事も出来ないみたいだから復帰は望めないし何より……ねぇ…。」
彼にはもう既に家庭があるからなぁ…。
とは言えなかった。言葉を濁し指先で頬をかくゆうりに日番谷は怪訝そうな顔をする。
「無事ならそれでいい。今更深追いする気もねぇよ。寧ろ俺が怒ってるのはお前に対してだ。」
「えっ。」
ピッ、と向けられる指先に彼女は長いまつ毛を瞬かせる。日番谷はそのまま言葉を続けた。
「人に頼れだのなんだの言うくせにお前が頼ったのは誰でもねぇ、市丸だと?事件の起きたあの日、お前の隊長は誰だった?」
「ひ…日番谷隊長…です…。」