第12章 五番隊隊長就任編
「……あの日かどうかは定かでは無いですが…確かに三番隊の管理する地獄蝶が1匹減っていたんです。市丸隊長に言われて脱走として処理したのですが…。」
今度は室内に沈黙が訪れる。最初から最後まで、何を考えているのか分からない男だと思う者が大半だった。彼の真の目的を知るゆうりだけが、唯一の理解者であり彼の行動の裏側を知っている。
「…で、それから空座町で浦原喜助と再会した私は現世で霊圧遮断型義骸を着て彼や四楓院夜一と共に暮らし、修行していました。そして今に至ります。」
「夜一様と……随分の時間を過ごしたようだな…。」
「はは……えっと…稽古もして頂いてとても実りのある時間でした。…それでも藍染をどうする事も出来なかったのですが…。」
ゆうりが話を終えると重苦しい空気が覆う。山本は己の長い白髭をゆったりと撫で一拍置いて、杖先でトンと床を叩けば彼女に集まっていた視線は、一斉に山本へと向けられる。
「……聞いての通りじゃ。死神殺しに関しては藍染の企てによるものとして不問とする。そしてもう一つ。染谷ゆうりの姿を見て分かると思うが、しばらくの間五番隊隊長代理を務めてもらう運びとなった。」
「代理、ですか?染谷なら充分隊長として務まると思いますが…。」
「試験も無しに隊長となる事は赦されぬ。しかし、五番隊は隊長・副隊長を欠き指揮を執る者が居らん。副隊長の席は残っておる今、空いておる席は隊長しか無いのじゃ。勿論、染谷が試験を受けるというのであればそれも良しじゃが」
「それは嫌です。」
「…という事での。」
キッパリと断るゆうりに質問を投げかけた浮竹は心底意外そうに目を丸めた。てっきり、断らないとばかり思っていたのだが。
「私は代理だから受け入れたんです。羽織を着ているのは、コチラに戻ってきたばかりであまり面識の無い五番隊の隊士達が見分けを付けやすいようにする為。新しい隊長が見つかったら、いつだって脱ぎ去る準備は出来ています。」
あわよくば、一度去ってしまった過去の隊長達にこの穴を埋めて欲しい。けれどその望みは至極薄いだろう。彼らはここに戻る事を考えてなど居ないのだから。
平子達の顔を思い浮かべ、ゆうりは袖口をキュッと握った。