第12章 五番隊隊長就任編
「何で…何で先にそれを言わなかったんだ…!お前、何も言ってなかっただろ!」
「た、隊長!今は抑えて下さい!」
声を荒らげた日番谷に一同の視線が集中する。話の腰を折る行為に山本が顔を顰めると、隣に立っていた松本が慌てて窘める。
「ッ……。」
「続けます。到着して私が見たのは2体の黒い虚でした。しかしそれこそが藍染の罠でした。鏡花水月に掛けられていたんです。虚に見えていたものは、部下たちだった。逆に部下達は私が虚に見えていたみたいです。先遣隊は3人でした。残りの1人は…私には部下に見えていました。ですが彼は私を虚と認識したらしく、不意を打たれ腹を貫かれてしまい満身創痍になった状態で藍染から逃げたんです。このまま日番谷冬獅郎が来たら、君を反逆者として捕らえるだろうと脅されて。」
「…その話し方だと、残る1人は生き残った様に感じますね。ですが当時その場に居た死神は、全滅だったと聞いています。」
「えぇ、卯ノ花隊長の言う通り私も1人は生きてると思っていました。ですがそうでは無かったんですね…。私は白伏で意識を飛ばしただけなんです。にも関わらず死んだという事は、私が去った後藍染が殺したんだと思います。これはあくまで、憶測です。私はその場に居なかったから。」
思い出すだけで苦々しい気分になる。今になっても忘れられないのだ。死んだ彼らの表情が。
「貴公はどうやって逃げた?現世に今まで潜伏していたのなら、向かうために地獄蝶が少なからず必要の筈。」
「…それは…。」
「…どうした?何か後ろめたい事でも有るのか?」
砕蜂の問い掛けにゆうりは黙って顔を床に向けた。言うべきか否か…。いや、どうせ離反してしまった後だ。言っても問題は無いだろう。
自分の中でそう折り合いをつけて顔を上げる。
「……………ギン…市丸ギンが、貸してくれたんです。」
一気に室内がどよめいた。藍染と同じく離反した彼が、何故彼女に手を貸したのか。何となく理由に関して察しがつく者も居るが、それでも聞かずにはいられない。躊躇いがちに口を開いたのは彼の事を良く知る幼馴染だった。
「アイツ…ギンはアンタになんて言ってたの?」
「私の口から言うのは若干気が引けるんですけど……"これはボクの独断。ボクの望みはキミが隣に居る事。死んでしまったら叶わん。"と。」