第3章 真央霊術院編
あまり自分と変わらなかった身長はいつの間にかスラリと伸び、顔付きも大人っぽくなっている。けれど、表情だけは何も変わらず不気味な程唇は弧を描いていた。
「ちゃんとギンの霊圧だって分かったから、追いかけたんだよ…?」
「そら偉いなぁ。」
ザリ、と砂利を踏む音を立てて市丸が1歩近付いてくる。姿形は彼そのものだが、纏う雰囲気にどこか恐ろしさを感じてゆうりは反射的に1歩後ずさった。
「……本当にギン?」
「疑っとるん?ボクの霊圧だって分かって追うて来たんやろ?」
「そうだけど、なんか怖い…。」
「酷いなぁ。そない逃げんといて。」
トン、と背中に壁がついた。市丸は笑みを深めてゆうりへ近づく。そして片手を壁につけて鼻先同士が触れそうな程顔を寄せた。
「ここに誘い込まれたとは、思わへんかった?」
「え…?」
「ボクはゆうりがここに来てること気付いとったで。だからわざとキミの前に現れて、霊圧垂れ流して、誘導したんよ。」
「…なんの為に?」
「二人きりで話す為。」
壁につけられた手とは逆の手がゆうりの頬へ添えられる。骨張った指先が優しく撫でた。
「10年以上ずっと探しとったんやで、ボク。霊圧すら感じ取れへんかったわ。」
「喜助さんが、隠してくれたから。」
「…用心深い人や。」
「ねぇギン…喜助さんが、帰ってこないの。何か知ってたら教えて欲しい。」
「さぁ…ボクはしがない5席やったからなぁ、なーんも知らん。」
「……やっぱり、何かあったのね…。」
心の中に、どうしても残っていた事。捨てられたのではないか、そんな疑問は今消え去る。市丸の答えから察するに、彼は現在護廷十三隊には居ないであろう事と何かがあって帰って来れなくなったというのが分かった。ただ、生死だけは分からない。
「はぁ……折角会うたのに他の男の話されると嫌やなぁ。」
「ギン?」
「ただでさえ男と歩いとる所見て腹立っとるのに。」
「…まさか修兵の事?友達だよ。」
「ボクな、瀞霊廷に居った時からゆうりにずっと言いたかった事あるんや。」
「何?」
「あんま警戒心無さすぎると、喰われてまうよ。」
「喰われ…?っ……!!」
頬を撫でていた指先がするりと下がる。親指で顎を持ち上げられたかと思えば言葉を遮られた。