第11章 尸魂界潜入編
ずっと慕っていた雛森を、アイツはなんの悪びれも無く殺そうとした。"憧れは、理解から最も遠い感情"ーー…そう罵った。唯一良かったとすればその言葉を雛森が聞く事がなかった事かもしれない。
それでも矢張りあの男を…いや、男たちを許す訳にはいかない。大切な幼馴染の想いを踏みにじり、心を壊したあの男を。その為にはゆうりの言う通り、俺も強くなるしかねぇ。
何も出来ず敗北し、項垂れていた感情が少しだけ上を向いた気がした。心に僅かな余裕が出来た途端、抱き続けていた疑問がふと頭の中へ降りてくる。
「…お前は結局今まで何をしてたんだ?それにあの日…。」
「ずっと現世に居たよ。あの日のことはもう総隊長に話してあるから近い内に隊首会で話されると思う。」
「これからはここに残るのか?」
「うん。皆の力になりたいと思ってる。だから、これからもよろしくね。冬獅郎。」
「…あぁ。」
僅かばかりに頬を綻ばせた日番谷に釣られゆうりも眦を緩めた。そろそろ部屋を出ようかと立ち上がった際、視線が彼の手元へ落ちる。そういえば、預けたままであった。
「ごめんね、指輪勝手に預けちゃった。」
「指輪?…これか。なんでわざわざ俺に?」
「一番の理由は、藍染と戦うにあたって制御装置は邪魔になると思ったから。もう一つは、冬獅郎が生きてくれますようにっておまじない。」
日番谷の手を取り口元まで近付け指輪の添えられた指の根元へ唇を寄せる。彼はカッと顔を朱に染めると何か言いたげに口を開閉させたが、何事も無かった様子で指輪を抜き去り元の位置へ通す彼女に溜息を吐いた。
「な……ッ、お前なぁ…!」
「効いたでしょ?」
「そんなもの無くても俺は死なねぇ。」
「そうだったかもね。でも、私は貴方に持ってて欲しかったから。私の隊長だった、冬獅郎にね。」
「これからもそうなるだろ?此処に残るなら。」
「……あー…。」
歯切れの悪い返答に、彼は訝しげにゆうりを見詰めた。戻って来るというのだから、てっきりまた十番隊に所属するものだと思っていたのだが反応を見る限りそうでは無いらしい。
「…異動するのか?」
「異動、というか……私が近い内にどこでどうなるか総隊長から纏めて説明されると思う。それまで楽しみにしてて。」
「もったいぶりやがって…。」