第11章 尸魂界潜入編
次に足を運んだのは、日番谷の元だ。ノックし、扉を開くと彼は既に目を覚ましていたらしく、ベッドの上に座り窓から外を眺めている。夕方に差し掛かった空は青から次第にオレンジ色に変わる逢魔が刻。来客に気付いた彼は弛緩に振り返った。
「ゆうり…。」
「冬獅郎、起きたんだね。傷は大丈夫?痛い所あったら私が治すよ。」
「いや、卯ノ花隊長が殆ど治してくれた。明日には隊舎に戻るつもりだ。」
「そっか、それなら良かった。」
ゆうりは部屋にの角に備えられていた丸椅子を運びベッドの脇に置いて腰掛けた。彼は思い詰めた表情で真っ白なシーツを見詰める。考えている事は、何となく分かる気がした。
「…アイツに…藍染に歯が立たなかった…。」
「……強いでしょ。あの人。」
「見えなかったんだ。瞬歩を目に捉えることも出来なかった。同じ隊長で、ここまで差が有るなんて思っていなかった…。」
日頃から眉間に皺を寄せている彼が、今日は一段と険しい顔をしている。そんな日番谷を見て彼女はいたずらっぽく口角を吊り上げると、ひっそりと片手を上げ指先を彼の眉間へグリグリと押し付けた。
「!?な…何しやがる!」
「いやぁ、今日はいつにも増して皺作ってるから伸ばしてあげようと思って。」
「うるせぇ…!」
「私も何度も藍染から嫌がらせされたの。間接的にだけど、海燕さんを殺されたり、学生の時は同期の子達が死にそうにもなった。その度自分の不甲斐なさに絶望して、泣いて、悔しい想いを沢山したわ。もちろん、取り逃してしまった今もね。」
「ゆうり……。」
「だから、一緒にもっと鍛錬しよう!」
「はぁ…!?」
「藍染は強い。頭も良いし、何より性格が悪い!私も敵わないかもしれない。でも戦わないといけないの。だから次は、大事なものをちゃんと守れるようにお互い強くなりましょう。」
「……。」
屈託の無い笑顔で言葉を紡ぐゆうりに日番谷は呆気にとられる。自分を励まそうとしてくれているのは痛い程に伝わって来た。彼は数秒ポカンと口を開いていたが、突如堰を切ったかの様に喉を鳴らし笑う。
「ふ………ッ、性格が悪いって…。」
「だ…だって本当に性格悪いじゃない!見たでしょ、あの、人を殺すのになんの躊躇いもない顔!外道よ、外道。」
「まぁ…そうだな。」