第11章 尸魂界潜入編
「兄様……何故…何故私を…!?どうして…兄様……兄様っ…!」
何も答えぬ白哉は俯くばかりだ。そんな兄妹の元へ藍染が一歩近づく。ルキアは咄嗟に白哉の頭を抱え庇う。暗い瞳が2人を見下ろし、彼は鏡花水月へ手をかける。
不意に市丸の淡く紫がかった銀色の髪が揺れた。左脇腹へ視線を落とし小さく唇を開く。胡蝶蘭が、無い。反射的に顔を上げた先で靡く死覇装とは違う黒い羽織。自分に良く似た、毛先が桃色に染まった銀色の髪。その手には確かに先程まで腰にささっていた筈の斬魄刀が握られている。
盗られた。油断をしていた訳でも無いのに、彼女の姿を視界に捉えることすら出来なかった。
「魅染めろ!"胡蝶蘭"!!」
「…!」
始解と共に彼女の斬魄刀は真っ白な刀身の大太刀へ姿を変えた。身の丈以上に有るそれを振り上げ藍染に向かって振り下ろす。彼は踵を返し、抜いた刀で受け止めた。清浄塔居林の時とはまるで別人の様に重い。藍染の中で何かがザワりと高揚する。
「…指輪を外したか。だがそれでは足りないよ。」
「私を殺してから言って下さい。」
「そうさせて貰おう。」
刀越しに身体を押し返され、ゆうりは自ら後ろに飛び退く。構え直す間を与えない様、藍染はすぐ様地を蹴り逃げた彼女を追い肩付近を目掛け刀を突き出す。片足を後ろに引く事で半身を捻りソレを避けると右手で持っていた大太刀を横に薙いだ。しかし藍染はその場で飛び上がり宙へ回避する。激しい打ち合いと高度な瞬歩の応酬に周りで見ていた隊長格ですら目で追うのがやっとだった。
振り上げられた刀を受け留め、時に避け、反撃する。それでも互いに傷一つつける事は出来ない。ただ動く度はためく隊首羽織や黒い羽織が辛うじて切れる程度だ。
「いい動きだ。それだけに、ここに残る選択をしてしまう事が惜しい。」
「しつこい男は嫌われますよ。」
せめて、せめて崩玉だけでも取り返せれば…!
そう思い打ち込みを続けるが、藍染は思惑を見透かして居るのか全く動じず、隙も見せない。
喜助は確か、掌に収まるようなとても小さな物質だと言っていた。それならば普通懐へ入れるはず。
考えの行き着いたゆうりは死覇装を斬り裂いてしまおうと、下段構えの状態から左懐を目掛け刀を斜めに振り上げる。だがその動きですら彼は見抜いたらしい。