第11章 尸魂界潜入編
「如何なる理由があろうとも、立ち入ることを許されない完全禁踏区域は瀞霊廷内にはこの清浄塔居林ただ一箇所のみ。貴方があれ程までに精巧な"死体の人形"を作ってまで身を隠そうとしたのならその行く先は瀞霊廷内で最も安全で見つかりにくいここを置いて他にありません。」
「惜しいな。読みは良いが間違いが二つある。まず一つ目に僕は身を隠す為にここへ来たわけじゃない。そしてもう一つーーこれは"死体の人形"じゃあない。」
「!」
「…い…いつの間にーー…!」
勇音と卯ノ花の目が見開いた。ゆうりには、藍染がただ右手に斬魄刀を持っているように見える。だが2人はそう見えていないらしい。彼女らには藍染が突然何も無い場所から自分の死体の人形を引きずり出した様に見えたのだ。
「いつの間に?この手に持っていたさ、さっきからずっとね。ただ…今この瞬間まで僕が、そう見せようとしていなかっただけの事だ。尤も…君には既に見えているのだろう?」
「……。」
「…!?」
「ど…どういう……。」
藍染が視線をゆうりへ向けると彼女は咄嗟に背けた。彼はただ、斬魄刀を持っているだけ…このまま解放する所まで見せられて振り出しに戻ってしまう。それを避ける為に見るわけにはいかない。
「直ぐに分かるさ。そら、解くよ。砕けろ。"鏡花水月"。」
「!」
パキン、と音を立てて死体は砕け、その手には斬魄刀だけが残った。藍染が柄から手を離すと静かに滑り落ちた鏡花水月の鋒が床に刺さる。
「僕の斬魄刀"鏡花水月"。有する能力は、"完全催眠"だ。」
「…嘘…だって鏡花水月は流水系の斬魄刀で…霧と水流の乱反射で敵を攪乱して同士討ちさせるって…藍染隊長そう仰られていたじゃないですか…。私達副隊長を集めて…実際に目の前で見せて下さったじゃないですか!」
「…成程…それこそが…催眠の"儀式"という訳ですか。」
「御名答。"完全催眠"は五感すべてを支配し一つの対象の姿・形・質量・感触・匂いに至るまで全てを"敵"に誤認させる事が出来る。つまり蝿を龍に見せることも沼地を花畑に見せることも可能だ。そしてその発動条件は、敵に鏡花水月の解放の瞬間を見せること。一度でもそれを目にした者はその瞬間から完全催眠に堕ち、以降僕が鏡花水月を解放する度完全催眠の虜となる。…彼女はどうやら例外となってしまったらしいが、ね。」