第11章 尸魂界潜入編
どうしてイヅルがギンの手助けをしているの…?脅されて…?まさか彼らと共に離反するつもり…!?裏切り者は藍染、ギン、東仙のみだと思っていたのに。それとも此処でイヅルを利用しているだけなのだろうか。だとすれば用が終われば殺されてしまう。それだけは絶対にさせられない…!
鎖条鎖縛で背中側に封じられた手を強引に翻し、指先をそっと触れさせる。反鬼相殺で縛道を消し去り即座に己の左腰へ手を伸ばした。
「…!斬魄刀が…!」
「君の斬魄刀なら、今はギンが持っているよ。」
本来そこにある筈の物が無い。ゆうりが右手の手元へ視線を落とすと同時に藍染は左手を彼女の腹へと伸ばし、右脇腹を貫通した傷口へ優しく触れる。振り払うよりも先に揃えられた指先が宛てがわれ、間髪入れず無理矢理穴を拡げながらズッ、と腹の奥まで穿った。細い刀傷だったものが彼の大きな掌の大きさまで拡がり、手首まで埋められた瞬間電撃を浴びせられる様な鋭い痛みにヒュッと喉が鳴る。
「あぁあああッ!!」
「これでまた暫く動けはしないだろう。」
ずるりと引き抜き真っ赤に染まった手を寝台の布で乱雑に拭う。酷い痛みに全身から嫌な汗が吹き出る。血も止まらない。真っ黒な死覇装が水分を吸う事で重くなっていく。腹を抑え藍染を睨むと、彼は立ち上がりゆうりに背を向けた。
「すまないが、此処に居てくれ。」
「う、ぐ……待って……!」
真っ白な隊首羽織りを翻した藍染は素知らぬ顔でそのまま部屋を出ていった。ゆうりは荒い呼吸を繰り返し、手のひらを傷口に充てる。
せめて、塞がないと。昨日に続きこれ以上の出血はまずい。ふわりと薄黄色の光が腹を覆う。強い痛みから霊力のコントロールが安定せず、光の形が歪む。少しずつ傷口が閉じていく最中、近くから市丸、藍染、そして雛森の声が聞こえて来た。しかし、距離がある為か詳しい会話内容までは聞き取れない。軈て雛森の霊圧が急速に萎んでいくのを感じた。
「はっ……嘘、桃…?」
消えたわけではない。だがそれに限りなく近い。急がないと。助けないと。気持ちばかりが焦り更に治療が遅れる。やっとの思いで腹と背側の皮膚が繋がると、寝台から降り、貧血でふらつく足取りのまま扉に手を置き部屋の外へと出た瞬間、近くにあったひとつの塔が激しい音を立てて崩壊した。