第11章 尸魂界潜入編
「それは困るな。」
「ッ……!」
弛緩に持ち上げた左手の掌が己に向けられる。暗い茶色の瞳と視軸が絡んだ刹那、淡い黄色の光を帯びた鎖がゆうりに襲い掛かる。
完全詠唱破棄の鬼道…!
頭でそれが何かを理解するよりも先に身体が動く。その場で高く飛び上がり、藍染の頭上で宙返りし左手を構え、霊力を集中させると、バチバチと電気が腕全体を纏う。
「破道の六十三!"雷吼炮"!!」
「温いな。」
雷を纏った大きな衝撃波は近距離で放ったにも関わらず簡単に斬魄刀で弾かれた。矢張り隊長格ともなれば生半可な鬼道では通じない。落下する重力に身を任せ斬魄刀を振り下ろす。互いの力量を確かめるかの様に何度も刀が交わり火花が散った。片手を持ち上げ破道を放ち、天井に穴一つ空けてしまえばそれだけで隊長の誰かしらは駆けつけて来るだろう。しかしこの男の前では一切の気を抜く事が許されない。嫌な汗が伝い頬を滑って床へ落ちた。
ゆうりは刀を握る手に力を込め、藍染を押し返す事で距離を取る。
「…こんな狭い場所じゃ埒が明かないわ。」
「確かに、キミの斬魄刀で此処は戦い辛いだろうね。」
…1度退こう。他の隊長を連れてこの場に戻れば、彼が離反を企てている事も明るみに出来る。そうすれば自分に掛かる疑いも晴らす事が出来るかもしれない。そう考えたゆうりが一歩足を引く。その時だった。
「射殺せ。"神鎗"。」
「え……。」
初めに感じたのは強い衝撃。ドスッ、という何かを貫く音に視線を落とした。腹から突き抜ける銀色の刃。先端からは赤い血が滴っている。
スルスルと短くなりながら抜けていく斬魄刀を追うように振り返ると、そこに立っていた男を見てゆうりは奥歯を噛み締めた。市丸は、黒い外套のフードを脱ぎニンマリと笑う。
「ギン…!!」
「だから、言うたやろ。」
細く穴の空いた脇腹を抑え、ふらつく足に力を込め何とか立つものの、痛みが消えることは無い。藍染は相変わらず涼しい顔をして彼女の元へ歩み寄ると片手で襟を掴み顔を寄せた。吐息が触れる程の至近距離にゆうりは呼吸を潜める。また不意をつかれた。