第11章 尸魂界潜入編
彼の指先がピクリと小さく揺れたのをゆうりも日番谷も見逃さがった。それでも表情だけは相変わらず変わらない彼は不気味な程口角を吊り上げ笑っている。
「はて、なんの事やら。」
「…今のうちに言っとくぞ。雛森に血ィ流させたら俺がてめぇを殺すぜ。」
「そら怖い。悪い奴が近付かんようによう見張っとかなあきませんな。」
とても以前の瀞霊廷内とは思えぬ程空気は悪く、人と人との関係が良いとは思えない。…いや、元々ギンはあまり人から好かれるタイプでも無かったかな。
そんな事を考えていると隣に立っていた日番谷がゆうりの腕を掴んだ。
「お前も来い。総隊長から捕えるように仰せつかってる。」
「…ごめんね冬獅郎。私は行かないと。牢に入れても直ぐに脱走するよ。」
「駄目だ。それでも逃がす訳にはいかねぇ。」
腕を掴む手に力が篭った。真っ直ぐ見詰める翡翠色の瞳から、一体どれ程自分の事を心配していてくれたのかが伝わって来る。それ故に、振りほどく事が出来なくてゆうりは眉を下げ彼を見下ろした。
「ボクん所の牢に入れたろか。絶対逃がさへんよ、ボクなら。」
「ゆうりは元々十番隊だ。お前に渡す義理はねぇ。」
「……やっぱり私、まだ捕まるわけにはいかないわ。確認したい場所があ……、ッ!!」
言葉を紡ぐ最中、己に迫ってくる人物に気付くと咄嗟に斬魄刀を抜き言葉を詰まらせた。刀同士がぶつかり合い小さな火花が飛び散る。瞬歩で一気に距離を詰め、ゆうりへ斬りかかってきたのは市丸だった。その場に残っていた全員が目を見開く。ゆうりにめっぽう弱い彼が、彼女に対し牙をむく姿を見るのは初めてだった。
ゆうりは腕に力を込め弾くと日番谷の手まで振り払い後に飛んで距離を取り、斬魄刀を構える。
「あらら、逃げられてもうた。あかんで、ちゃんと掴んでおかんと。」
「な……ッ、いきなり何しやがる!アイツに斬り掛かる必要は無ェだろ!」
「何言うてはるの?ゆうりは逃げようとしてたやんか。ボクが斬り掛かるのに十分な理由や。この子、手なり足なり切り落とさんと何処へでも逃げてまうよ。」
「……。」
わざわざ止めに入った、という事は私がこれから向かおうとしている場所の予想が大方ついているのだろうか。そしてそこには彼にとって都合の悪いものがある…?