第3章 真央霊術院編
遠巻きに見ていた檜佐木は眉間に皺を作りその様子を眺め、蟹沢は彼の隣で苦笑しながら見詰めていた。
ゆうりが困った様子でチラチラと檜佐木らに視線を送ると、蟹沢は檜佐木の手を引く。
「ほら、檜佐木くん!助けてあげよ。」
「分かってるって。」
2人がゆうりの元へ近寄ると、男達はじろりと檜佐木を睨んだ。
「…何か用か?」
「流魂街出身の癖に、生意気だぞ。」
「コイツの言う通りだ!!」
彼らはどうやら貴族のようだった。流魂街出身は貴族達に野蛮だのなんだの囁かれる事は有る。しかし直に目の前で差別を口にされると腹が立ち、檜佐木は顔を顰め蟹沢はやや俯いた。
「うるせぇな…流魂街だからなんだよ。」
「野蛮な男が彼女に近付くなって言ってるんだよ。」
今にも始まりそうな喧嘩に緊張が走る。するとゆうりが直ぐに間に割って入り、男達に向けて頭を下げた。押され気味だったはずの彼女の行動に男達は目を丸める。
「すみません、私も流魂街出身です。それに…出身だけで差別する様な方々とお付き合いする事は出来ません。失礼します。」
ゆうりは蟹沢と檜佐木の手を掴み足早に教室を出た。残された貴族達はポカンと口を開き、強引に連れ出された2人も驚いた表情で彼女の背中を見詰める。蟹沢は恐る恐る声を掛けた。
「ゆうりちゃん、もしかして怒ってる…?」
「当たり前だよ!」
「珍しいな、ゆうりが怒るの。」
檜佐木がポツリと呟くとゆうりは振り返り、両手を腰に当てて彼にグッと顔を寄せた。彼女の思わぬ行動と距離の近さに檜佐木は呼吸を詰めて固まる。
「修兵は、困ってる私を助けてくれたでしょ。すっごく優しい人なのに、何も知らない人達が出身を聞いただけで野蛮なヤツだなんて、許せる訳無いじゃない。付き合う友達位自分で選べるわ。」
「…お前、気恥しい事割と普通に言うよな。」
「檜佐木くん顔真っ赤だよ。」
「うるせぇ。」
檜佐木は赤く染まった顔を隠すように片手で覆ったが、耳まで朱に染まる姿に蟹沢は笑う。ゆうりは暫く唇を尖らせ怒っていたが、昼食を終える頃には普段通りに戻っていた。
午後の授業を終え、放課後を迎えると再び3人は集まった。ゆうりは未だにチラチラと視線が向けられるのを感じたが全く気に停めず鞄を肩に掛ける。