第11章 尸魂界潜入編
真央霊術院からの同期であり、彼をよく知る吉良だからこそ阿散井の敗北を誰よりも信じられないし、信じたくなかった。先程、ゆうりが去って行った方を見詰める。彼をやったのは、先程の女では無いだろう。そもそも、あの姿は……いや、彼女は死んだと聞いた。見間違いに決まってる。そう思わずにいられない反面、胸がザワつく。
「なっ…なんだこりゃ!?」
「どうなってんだ…?」
「どうした?」
阿散井に近付いた隊士達が頓狂な声を上げた。吉良は直ぐに視線をそちらへ戻し彼らの元へ歩み寄る。そして倒れた同期の姿を見て目を見開く。
「これは…!」
「…先程立っていた、黒い外套の女でしょうか?」
傷が致命傷とは思えない程浅い。目に見えて死覇装に血がベッタリと付いている上、辺りも血塗れなのにも関わらず彼の怪我は不自然な位浅いのだ。
彼の傍にしゃがみ込み傷に手をあてる。まだ僅かに残る霊圧の名残は、自分が良く知る人物のものと同じだった。
「まさか…本当にあの人が…?でも、何故……」
「…追いますか?」
「……いや、まずは念の為救護室へ運ぼう。卯ノ花隊長に確認して貰いたい事もある。」
一方、その場から逃げたゆうりが向かった先は地下の水路だった。はるか昔四番隊に所属していた経緯も有り、この場を知らぬ訳では無い。山田達の霊圧が再び消えたという事は恐らく此処だろう。暗い水路を見渡し歩いていると、人影を見つけた。
「いたいた。おーい、岩鷲くん!花太郎くん!」
「ゆうりさん!」
「ゆうりじゃねぇか、お前まさか死神達引き連れて来てねぇだろうな…!?」
「そんな一護を売るような真似はしないよ。様子を見に来たの。どう?花太郎くん。」
「ひどいです……でも、ぼくが必ず治します。やらせて下さい。」
山田は肘まで有る長いゴム手袋をキュッと装着し真っ直ぐな瞳で一護を見下ろした。普段頼りなく見える彼が今日はとても頼もしく見える。自分が四番隊を移籍し、他の隊で別の事を学んでいる内に彼は回道を極めていったのだろう。
「そっか!じゃあ私は岩鷲くんの傷を治そうかな。」
「そういやお前、兕丹坊の腕くっ付けてたな…ゆうりも四番隊だったのか?」
「元ね。一番最初に所属していたのが四番隊なの。」